安倍ブレーンの1人で、財務官僚出身ながら公務員改革に取り組んだ高橋洋一・嘉悦大学教授がこう振り返る。
「第1次安倍内閣の公務員改革の担当大臣は渡辺喜美さんで、私は政策スタッフとして官邸にいました。改革を進めると財務省をリーダーとして霞が関全体が反発し、もの凄い監視を受けた。事務次官のヒアリングを行なう予定なのに、約束の時間に来ないとか、いろいろと邪魔をしてくる。渡辺さんは『倒閣運動』と言っていた。
難儀したのが国会答弁の差し替えです。官邸には財務省などの秘書官がいるでしょう。これが答弁書の細かいところを書き換えてしまう。一般の人だとわからないような仕掛け、いわゆる官庁文学の文言を入れ替えたり、語尾を変えたりすることで改革を骨抜きにしようとする。私は『こういう質問が来た時の答弁はこれです』とそれをいちいち直すんです。私が国会に行けない時には渡辺大臣に正しい答弁書を託して安倍総理に伝えたこともありました」
第1次安倍内閣はわずか1年で退陣、その2年後に自民党は下野し、民主党に政権交代した。安倍氏が財務省との対決方針を固めたのは、この民主党政権時代だった。
財務省の「注射」
きっかけは東日本大震災の際、時の菅直人内閣が真っ先に復興増税を決めたことだ。
〈民主党政権の間違いは数多いが、決定的なのは、東日本大震災後の増税だと思います。震災のダメージがあるのに、増税するというのは、明らかに間違っている〉
安倍氏はそういう思いから、浜田宏一・イェール大名誉教授、本田悦朗・静岡県立大教授、高橋氏らのブレーンと何度も議論したと語り、〈日銀の金融政策や財務省の増税路線が間違っていると確信していく。そこでアベノミクスの骨格が固まってくる〉と証言している。
そうしたなか、民主党政権は復興増税に続いて、「社会保障と税の一体改革」を掲げて消費税増税を推進した。
〈時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってしまう。菅直人首相は、消費増税をして景気を良くする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです〉