ライフ

「沼地の幽霊」と呼ばれたマラリア ローマ繁栄で交通路発達とともに拡大した

マラリアについて岡田晴恵氏が解説(イラスト/斉藤ヨーコ)

マラリアについて岡田晴恵氏が解説(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、ローマ繁栄とともに流行したマラリアについてお届けする。

 * * *
 マラリアはしばしば沼沢地の付近で流行が起こりました。

 唾液腺にマラリア原虫をもつハマダラカに刺されることで、人はマラリアを発症し、悪寒、発熱を繰り返したのです。その経験からか、まだ蚊が媒介するという感染経路がわかっていなかった頃にマラリアには「沼地の幽霊」という別名がありました。

 地中海の制海権を独占したローマ帝国は1世紀後半から2世紀には最盛期を迎え、ヨーロッパからアフリカ北部や中東にまで領土を広げます。そして、首都ローマから放射線状に「ローマ道」を造り、各地の都市を整備しました。こうして通商も盛んになり富が集中したローマに、労働力としてアフリカや中東などの属州から多くの奴隷が連れて来られました。

 マラリアはもともとイタリア半島などに存在する風土病でしたが、皮肉にもローマの繁栄と共にローマ道で帝国内へ拡大しました。

 しかし、マラリアは蚊が媒介する感染症なので、感染者がやってきただけでは流行にはなりません。蚊の幼虫のボウフラが増えやすい環境が必要になります。

 マラリアの流行に拍車をかけたもう一つの要因は森林伐採でした。ローマ帝国の繁栄と共に生活物資の生産や軍事力の強化のために鉄や鉛が必要となります。すると、それら鉱物を溶かすために燃料となる樹木を大量に伐採しなくてはなりません。こうして森林伐採のあとに多くの水溜まりができ、ボウフラが大量発生してマラリアが広まることになったのです。

 さらに愚鈍な皇帝が即位して国力が衰え始めると、河川や沿岸の整備が行き届かずに荒廃していき、ここでもマラリアが発生しました。そして、市民だけではなく、ローマの兵士の中でマラリアが蔓延していくと兵力は衰え、帝国の分裂や滅亡への一因に繋がっていきました。

 一方、紀元前後のローマ医学は、アジアやエジプト・アレクサンドリアに発展したギリシャ医学の知識も集積して発展していました。紀元前75年頃に博物学者のマルクス・テレンティウス・ウァロは著書の中で「マラリアなどの伝染病の原因は小動物ではないのか」と指摘しています。また、紀元130年頃に生まれたクラウディウス・ガレノスは、古代医学の頂点を極めた人物です。

関連キーワード

関連記事

トピックス

元交際相手の白井秀征容疑者(本人SNS)のストーカーに悩まされていた岡崎彩咲陽さん(親族提供)
《川崎・ストーカー殺人》「悔しくて寝られない夜が何度も…」岡崎彩咲陽さんの兄弟が被告の厳罰求める“追悼ライブ”に500人が集結、兄は「俺の自慢の妹だな!愛してる」と涙
NEWSポストセブン
グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカル
【ニコラス・ケイジと共演も】「目標は二階堂ふみ、沢尻エリカ」グラドルから本格派女優を目指す西本ヒカルの「すべてをさらけ出す覚悟」
週刊ポスト
阪神・藤川球児監督と、ヘッドコーチに就任した和田豊・元監督(時事通信フォト)
阪神・藤川球児監督 和田豊・元監督が「18歳年上のヘッドコーチ」就任の思惑と不安 几帳面さ、忠実さに評価の声も「何かあった時に責任を取る身代わりでは」の指摘も
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン
赤穂市民病院が公式に「医療過誤」だと認めている手術は一件のみ(写真/イメージマート)
「階段に突き落とされた」「試験の邪魔をされた」 漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルになった赤穂市民病院医療過誤騒動に関係した執刀医と上司の医師の間で繰り広げられた“泥沼告訴合戦”
NEWSポストセブン
被害を受けたジュフリー氏、エプスタイン元被告(時事通信フォト、司法省(DOJ)より)
《女性の体に「ロリータ」の書き込み…》10代少女ら被害に…アメリカ史上最も“闇深い”人身売買事件、新たな写真が公開「手首に何かを巻きつける」「不気味に笑う男」【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
2025年はMLBのワールドシリーズで優勝。WBCでも優勝して、真の“世界一”を目指す(写真/AFLO)
《WBCで大谷翔平の二刀流の可能性は?》元祖WBC戦士・宮本慎也氏が展望「球数を制限しつつマウンドに立ってくれる」、連覇の可能性は50%
女性セブン
「名球会ONK座談会」の印象的なやりとりを振り返る
〈2025年追悼・長嶋茂雄さん 〉「ONK(王・長嶋・金田)座談会」を再録 日本中を明るく照らした“ミスターの言葉”、監督就任中も本音を隠さなかった「野球への熱い想い」
週刊ポスト
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン