違う世界を生きているもうひとりの自分がいるかもしれない(写真/PIXTA)
2022年には「地球の歩き方」と「月刊ムー」のコラボで『異世界(パラレルワールド)の歩き方』が発売され、人気を博すなど、いまパラレルワールドがにわかに注目され、行けるものなら実際に行ってみたいと考える人も少なくない。
「誰もが一度は、“あのときこの選択をしていなかったら”と、あったかもしれないもう1つの未来に思いをはせるのだと思います。
私は初対面の人や見知らぬ人に何回も『鎌倉に住んでますよね』と言われたことがあるので、もしかすると東京で忙しく仕事をしている自分と、埼玉で子供にキャラ弁を作っている自分、そして鎌倉でおしゃれに暮らしている自分もいるのかもしれない。そんなふうにまったく別の自分を想像すると、いまの自分の人生がうまくいかなかったとしても少し気が楽になるんです」(辛酸さん)
与えられた現世を生き抜くために、つかの間、思いをはせるパラレルワールドにいる自分の姿。空想に過ぎなかったはずの世界だが、科学の進歩によってその存在が証明されつつある。
海洋に存在するパラレルワールド
「海洋循環にはいくつものパラレルワールドが存在する」
こんな研究結果を発表したのは、東京大学先端科学技術研究センター教授の中村尚さんだ。中村さんの研究チームは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて海流の再現実験を行っている。研究対象は、沖縄から房総半島まで、日本の南を流れる暖流の黒潮。黒潮の流れは、銚子沖で陸地から離れた後も北太平洋まで続き、黒潮続流と呼ばれる。
「黒潮続流の流れはその年の気象や漁獲量に影響を与えるため、その変動を予測できれば天気予報や漁業に貢献することができます。社会的にも経済的にもメリットが得られることから、研究を進めてきました」(中村さん・以下同)
再現実験では、海流変動の要因となる風の向きや強さを現実的に少しずつ変えていき、それが海流の変動にどう影響するかに着目した。
「その結果、同一の方向から同じ強さで風が吹いていても、そうした外的要因とは関係なしに黒潮続流の動きは大きく変化することが明らかになったのです。つまり、“海が勝手に決める”ともいうべき予測不可能な部分がある。海洋循環にはいくつものパラレルワールドが存在し、そのうちの1つがいま、偶然観測されているとしか思えません」
