「バイトリーダーになるのも多くが大学を出た、仕事の決まらない子たちだったと思う。その分、経営者は人手とか、人材育成とか気にしないで雇い、適当なときに辞めさせたりもした。美味しい思いをすればその感覚から抜け出すのは難しい。ましてそれは長かった」
これは彼の話のみならず、他のフランチャイズオーナーはもちろん直営店舗の店長も含めた話だが、この「美味しい思い」が忘れられないままであるのではないか、とのこと。
「つまり『コンビニは社会のインフラ』なんて、そういう彼らがオペレーションしていたからこそ、ということ。その当たり前がいつまでも続くと、『我が企業の力』だと、過信してきたのがコンビニ大手だ。なんのことはない、オーナーを実質的な時給で言ったら300円とか400円とかで使い、アルバイトを低賃金であらゆる仕事を押し付け、使い潰してきた。それで人手不足とか、長年やってきた私だからこそ疑問に思う」
彼はそうした本部の姿勢にも疑問があると話す。
「もう70歳を前にしたから言える話だ。逃げ切りと言われるかもしれないが、私の年代の経営者の本音はみなそうだと思う。むしろいまの70代後半の団塊世代の経営者は本当に逃げ切った。私の知る先輩オーナーは最低賃金で人様の子をこき使い、捨て続け、いまは医者にするのだと自分の孫の中学受験に大金を使っている」
全員がそうではないが「代わりはいくらでもいる」と当時の若者の生活、人生の弱みにつけこんで使い潰してきた経営者がこの国に存在したこともまた事実だ。
「私はそこまで鬼にはなれないが、いままでのことは知らないふりして、いまできるだけのことしかする気はないのは本音だ。私の最後の城であるこの店舗で、ゆっくり終活する」
大量出店と不振店の切り捨てというスクラップ&ビルドによって成長を遂げた大手コンビニチェーン、それも行き詰まりを迎え始めている。近年報じられる本部と加盟店の関係悪化などもまた市場の飽和と誤った成功体験による企業側の過信にあるのかもしれない。近年コンビニによっては「店長ヘルプ制度」「オーナーヘルプ制度」といった無償で年間1日、本部社員が運営を代行するシステムもあるとのこと。オーナーをねぎらう「感謝のつどい」「本社社長による店舗直接訪問」などもあるということで、かつての態度とは大きく変化している、いや変化しなければ本当に危機的な状況にあることがわかる。どこでも、いつでもなにげなく使えるコンビニは、実は多くの人々の犠牲の上で成り立っていた、といっても過言ではない。
しかしやっかいなのは、いくらこれから努力するにせよ、日本の人口が自然に増えることはなく、むしろ急激に減り続けるということ。それがいま、まず少子化によって露呈し始めているということだ。
「いまの若い人はいくらでも正社員になれる。20年前は正社員になるのが夢なんて若者もいたが、いまでは『どこで正社員になるか』と、若者が選べる時代で正社員であることは当たり前だ。コンビニの店舗、ましてフランチャイズなんて零細企業で正社員すら敬遠される。コンビニでは正社員という餌もきかない」