そこで両者の歩み寄りのひとつのポイントとなるのが、北朝鮮の被爆者である。1945年8月に広島で被爆後、北朝鮮に帰った人々への支援としてなら、何らかの措置を講じる余地がある。北朝鮮の被爆者協会は2008年、戦後に北朝鮮へ渡った被爆者は計1911人だと明らかにしたが、国交がないとの理由で、今に至るも被爆者援護法の空白地帯に置かれてきた。韓国や米国などに住む被爆者が援護法の対象とされている現実を鑑みれば、北朝鮮の被爆者に対しても何らかの支援を行なうのが公正でもある。
日本政府はこれまで北朝鮮の被爆者を対象外としてきたのは、個人に金銭的な支援をしようとしても国家に吸い上げられ、核開発などに流用されることを恐れてのことだった。しかしそれとて、米国など関係各国の理解や黙認さえあれば出来ないことではない。
G7の際、岸田首相が尹錫悦大統領とともに韓国人被爆者の慰霊碑を参拝したことは、韓国世論からも大きな支持を得た。それに何より、日本人拉致問題を進展させることができれば、岸田首相が近く決断すると見られている解散総選挙においても、国内世論から強力な支持を得られる可能性がある。小泉政権(2004年)以来となる日朝首脳会談実現の機運は、確かに高まっているのだ。
【プロフィール】
李策(り・ちぇく)/ジャーナリスト。1972年東京生まれ。在日韓国人3世。 朝鮮総連の傘下機関で勤務後、フリーに。 著書に『激震! 朝鮮総連の内幕』(小学館文庫)、『板橋資産家殺人事件の真相:「日中混成強盗グループ」の告白』(宝島社)、共著書に『戦後日本の闇を動かした「在日人脈」』(宝島SUGOI文庫)など。