コロナ禍以降も続く物価高で生活に困窮するのは、若者世代も同じだ。これはメディアでは「学生の貧困」などとして報道されるようになってきた。
「学生の貧困」
筆者がテレビ報道の放送時間をまとめた研究では、「学生の貧困」についてのテレビ報道はリーマンショックの頃と比べるとその後に起きたコロナショックで10〜20倍以上も増加している。これはコロナ禍で親が生活に困窮する学生たちが増える一方でアルバイトなどが急減したことで困窮する学生が急増したことが背景にある。
もちろん、実際に困窮する学生の数が10倍も20倍も増えたというわけではない。「学生の貧困」についての報道がそれだけ増えたという話だ。自ら問題をSNSで発信する若者たちが増えたことでテレビでもこの問題がニュースになる機会が増加し、「学生の貧困」という言葉が周りに浸透するようになったと思われる。ただ、ドラマでこうした問題が扱われるのを見たのは初めてのことだ(参考:『メディアは「貧困」をどう伝えたか』水島宏明著/2023年・同時代社の94ページあたり)。
SNSを通じて個人間で行われる違法な貸金ビジネスが急増していると言われている。テレビメディアでこの問題をしっかり報道している報道機関はNHKの「クローズアップ現代」や「あさイチ」などに限られている。
ドラマに登場した「個人間融資」の話も学生に聞いたら掲示板がいたるところにあるという。見知らぬ同士でもスマートフォンでアプリを通じてお金のやりとりが簡単にできる時代だ。
SNSを使って悪い大人が社会経験の少ない若者や未成年を狙うケースがあるのは「闇バイト」の話ばかりではない。こんなところにも子どもや若者たちを狙うワナが広がっている。そのことをドラマという表現で視聴者に気づきを与えてくれた傑出した回だった。
『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』の最終回は9月12日放送だ。伊藤沙莉演じる吉野ひかりは執行補助者の立場から女性で数少ない執行官になるのだろうか。最終回はどんな「社会のリアル」を見せてくれるのか楽しみだ。見逃したという人はTVerやNetflix、TELASAなどで視聴可能だ。
【プロフィール】
水島宏明(みずしま・ひろあき)/1957年北海道生まれ。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」前編集長。近著に『メディアは「貧困」をどう伝えたか 現場からの証言:年越し派遣村からコロナショックまで』(同時代社)、『内側から見たテレビ─やらせ・捏造・情報操作の構造─』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)。