芸能

山口百恵さんが涙した“伝説の美声” シャンソン歌手・金子由香利さんとの運命のめぐり合わせ

囁くような美声で聴衆を魅了した金子さん(右)

囁くような美声で聴衆を魅了した金子さん(右。左は山口百恵さん)

 東京・銀座7丁目の花椿通り。行き交う人で賑わう交差点の角に「元銀巴里跡」と書かれた小さな石碑がたたずんでいる。かつてその場所には三島由紀夫や寺山修司などの文化人に愛され、坂本龍一さんが学生時代にピアノを弾いたシャンソン喫茶があった。

 美輪明宏(88才)が17才で鮮烈なデビューを飾り、青江三奈さんや戸川昌子さんを輩出した「銀巴里」は1990年末に惜しまれながら閉店した“シャンソンの殿堂”。1987年に『第38回NHK紅白歌合戦』に出場した金子由香利さんも「銀巴里」出身のアーティストだ。

 百人も入ればいっぱいの地下の薄暗い店で歌っていた金子さんがその名を広く知られるようになったのは、引退直前の山口百恵さん(64才)がファンを公言したことがきっかけだった。1979年に東京・渋谷の西武劇場(現PARCO劇場)で金子さんのコンサートを手がけたプロデューサーの残間里江子さんが振り返る。

「谷村新司さんにすすめられて、銀巴里に彼女のステージを見に行きました。歌声は囁くようなピアニシモ。物語が目に浮かぶひとり芝居のようなステージに引き込まれ、彼女が出演する日は銀巴里に通うようになったんです。

 次第に金子さんと会話を交わすようになり、『西武劇場でコンサートを開けたら素敵ね』というような話になったのですぐに交渉に行きました。でも、劇場の担当者は『中年のシャンソン歌手はイメージじゃない』とけんもほろろ。困り果てていたところ、たまたま目にした雑誌の対談で百恵さんが好きな歌手に金子さんの名前を挙げていることを知ったのです」

 残間さんは百恵さんに推薦文をもらおうとしたが、人気絶頂のトップアイドルに会うのは至難の業。事務所に掛け合い、ようやくこぎつけた面会時間はラジオ番組の収録の合間の15分間だけだった。それでも、残間さんの意図を知った百恵さんは自分の手帳を1枚切り取ると、青いインクの万年筆で金子さんへの思いを7行ほどしたためたという。

「とても素敵な文章で、そのとき初めて百恵さんが書くことが好きな人だということを知りました。推薦文の効果はてきめんで1979年3月にコンサートが実現。3日間の公演は満員になりました。百恵さんも忙しい合間を縫って駆けつけ、普段はあまり感情を表に出さないといわれていたのに、ハンカチで涙を拭いながら聴き入っていました」(残間さん)

 今年7月、金子さんの代表曲『時は過ぎてゆく』(日本コロムビア)をカバーした歌手のクミコ(69才)も伝説のコンサートを目撃したひとりだ。

「囁くような声なのに、しっかり歌が伝わってくる独特な歌い方に強い衝撃を受けました。それまでシャンソンといえば越路吹雪さんが代表的な存在でしたが、ゴージャスな装いの越路さんと、黒一色で飾り気のない金子さんの舞台は対照的です。言葉を紡ぐように歌う金子さんのステージを目の当たりにして自然と涙があふれてきました。

 私には以前から銀巴里から生まれた歌を歌いたいという思いがあり、金子さんが世に出るきっかけを作ったひとりである残間さんにカバー曲のプロデュースをお願いすることにしたのです」(クミコ)

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン