税収が増えれば、予算編成権を握る財務省の力は強まる。財務省取材の経験が長いジャーナリストの長谷川幸洋氏(元東京・中日新聞論説副主幹)が語る。
「財務省にすれば、低支持率にあえぐ岸田首相や与党幹部たちが経済対策で減税や給付金バラマキをしたがり、霞が関の各省庁が予算を欲しがるのは好都合です。予算の配分を楯に政治家や霞が関をコントロールしやすくなる」
政治家の“減税禁断症状”は財務省の目論見通りなのだ。
15兆円の“ステルス増税”
岸田首相は税収増を「経済成長の果実」と自分の功績のように自慢しているが、国民にとっては負担増そのものだ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が指摘する。
「国民の実質所得が増えて、税収も増えているなら成長の果実といえますが、それなら経済対策の必要はないはずです。現状はその逆。企業が多少賃上げしても、物価がそれ以上に上がっているから実質賃金は17か月連続でマイナス。それなのに国民は名目上の賃上げで所得税を多く払わされ、モノの値段が上がった分、支払わされる消費税の税収も増えている。
実質所得が減って支払う税金が増えるのは国民にとって負担増以外の何物でもありません。法人税の税収が増えているのも、企業が賃上げをケチって利益を出している証拠です。10兆円の税収増とは、そのまま国民にとって10兆円の負担増ということです」
国民の負担増は税金だけではない。
名目賃金が上がれば、給料から天引きされる年金、医療、介護などの社会保険料も増える。
政府の社会保険料収入総額は2021年度の72.4兆円から2023年度は77.5兆円へと5兆円以上も増える見込みだ。国民は年間5兆円も多く保険料を払わされる。「成長の果実」どころか、国民には税収増と社会保険料増を合わせて15兆円の負担増、“ステルス増税”が行なわれたといえる。
そのカネの流れを辿ると驚かされる。政府はこの3年、コロナ対策や物価高騰対策を謳って毎年大型経済対策を行なってきた。
昨年度は岸田首相が「燃料費高騰対策」や「物価高騰対策」など鳴り物入りで2回の経済対策を打ち出し、総額約32兆円の補正予算を組んだ。ところが、国の2022年度の決算を見ると、今年度への「繰越額」約18兆円、国庫に返納された「不用額」約11.3兆円など使い切れなかった金額が約30兆円もある。補正予算とほぼ同額が余ったのだ。2020年度は約34兆円、2021年度も約30兆円余っている。