千人計画の後継と見られているのが「啓明(チミン)」と呼ばれるプログラムだ。啓明は、中国の工業情報省の監督で進められている。2018年以降も中国の千人計画に携わってきた中国共産党中央組織部の元職員はこう話す。
「啓明は千人計画を引き継ぐものですが、千人計画の反省から、目立つような喧伝はしていない。ただ、国外での人材・技術確保の方針は同じように続いています。1990年代から人材招致を行なっていた科学技術省なども関与して進められている」
啓明では、半導体など先端技術の獲得に力を入れている。アメリカが2022年10月から半導体の対中輸出に対する締め付けを強化したことで、中国が目指してきた「半導体自給率70%」という目標が危うくなっているからだ。
そのような機密技術を持つ学者やエンジニアなどを千人計画以上の厚遇で獲得しようと躍起になっている。最大で5億円近い報酬を用意したり、家や車の提供を“餌”にするケースもあるという。
200平米の住宅を用意
千人計画は、中国の人材派遣会社を介して募集をかけるなどして、技術を持つ人材を獲得していた。啓明でもそれは変わらず、これまでに北京市のベンチャーキャピタルや浙江省の人材派遣会社も関与が指摘されている。高収入を謳う人材仲介のウェブサイトや専用アプリなどでも、人材獲得に乗り出しているという。
啓明に関連する人材仲介の情報サイトを見ると、「外国人科学者募集。200平米の住宅と300万ドル(約4.5億円)の報酬を用意」と書かれた、外国人向けと思われる募集や、「ロボティクス・知能システム研究、年収60万元(約1200万円)以上+契約手当200万元(約4200万円)+科学研究事業費120万元(約2500万円)」などの記載がある。この記述を見て、中国人の仲介業者が外国人科学者獲得に動くこともあるという。
千人計画では、大学の研究者など、学術界での人材獲得が多く行なわれていたが、啓明では民間企業の研究者もターゲットになっている。元米国防総省の中国分析官であるジェフ・ストッフ氏はこう指摘する。
「中国共産党は大学などの協力だけでなく、民間企業の人材発掘イベントや、ベンチャーキャピタルによる新興企業への投資を通じて人材や技術を獲得している」