現会長の原田稔氏(時事通信フォト)
空白期ですら大組織が池田氏の思い一つをめぐって揺れたと聞くと、生前に接近したかったという好奇心は抑えられない。
私は2年前、すぐそこに池田氏が──という濃厚な感触を持った瞬間があった。学会タウンと言われる信濃町の一角に池田氏が居住するとされてきた教団施設があり、白い壁で囲われている。
2021年11月27日午前、取材で付近を歩いていると、お揃いの作業着風の男が5~6人、壁沿いに周囲に鋭い視線を配っているところに出くわした。
近づくと「ご遠慮願えますか」と牽制された。見ると壁に設けられたゲートが開き、1台の大型バスがバックで敷地に入っていく。窓にはスモークがかかっていた。
男たちと揉み合ううちにバスは出発してしまったが、前出の本部職員OBはこう言うのだ。
「確かに晩年の先生はバスで移動していた。気分転換なのか、町をバスで走ることもありました」
巨大な怪物は穏やかに去った。この先、創価学会を急速な衰退が待つのか、構造改革に踏み出せるのか。この13年の間、様々な課題に直面しつつも、池田氏の存在感に代わる指導者が登場しなかったことは、教団の難路を暗示しているようだ。
【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/1975年、東京都生まれ。慶応義塾大法学部卒。ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、2015年からフリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。
※週刊ポスト2023年12月8日号