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藤野千夜さんインタビュー 93歳の主人公の日常をユーモラスに描いた『じい散歩』第2弾の秘話「この家族は実在します」

藤野千夜さん/『じい散歩 妻の反乱』

『じい散歩 妻の反乱』著者・藤野千夜さんにインタビュー

【著者インタビュー】藤野千夜さん/『じい散歩 妻の反乱』/双葉社/1870円

【本の内容】
 前作『じい散歩』で最後、脳梗塞の発作で倒れた妻・英子。認知症の気もある妻を自宅で介護する日々を送る新平は現在93歳。毎朝のオリジナル体操に、散歩も欠かさず行っている。そして3兄弟もまた変わらず結婚もせず子どももいない──。長男は高校を中退後、家に引きこもったきり50代半ばを過ぎ、次男は「自称長女」で男の恋人と暮らすフラワーアーチスト。三男は会社を立ち上げたものの大借金を抱えて実家に舞い戻り隙あらば金の無心をする。新平は悩みを抱えつつも明るく日々を過ごしていたが……。

子ども世代だけではなく親世代の感想がうれしい

 健脚で食欲旺盛、エロへの関心も衰えない、大正生まれの明石新平を主人公にしたベストセラー小説『じい散歩』の第2弾、『じい散歩 妻の反乱』が出た。

 前作の終わりから2年半たって、新平は93歳になった。1つ下の同郷の妻英子は自宅で倒れたが、何とか一命を取りとめる。「延命治療はしない」と決め救急車を呼ぼうとしなかった新平だが、今ではかいがいしく老老介護にあたっている。

 明石家の3兄弟は相変わらずで、長男孝史は引きこもりのまま、フラワーアーチストの長女(次男)建二の仕事はコロナ禍の影響をかぶり、三男雄三の借金はますます膨らんでいる。3人とも母の介護は高齢の父親にほぼ任せきりだ。

 前作は今年夏に文庫化されて10万部を超すヒットとなった。高齢の読者に幅広く読まれたことは、藤野さんにとって意外だったそう。

「子どもの世代がいい気になって書いてるって言われるんじゃないかと思ったんですけど、全然そんなことなくて。92歳の男性が読者カードをくださったし、70代後半から80代の方も多く、親世代が読んでくださっているのはうれしいですね。

『うちの子も借金がたくさんあって』とか、『新平があの年まで健康なのがうらやましい』とかいう感想も届きました。

 書店で『お散歩じじい』って本ありますか、っておばあさんから聞かれて、書店員さんが『じい散歩』ですねって答えてくださったと聞きました。『お散歩じじい』って(笑い)。小説に使いたかったなと思いました」

 前作の最後で、「この本をお読みのみなさん。こんな家族は、嫌だとお思いでしょう? でも、この家族は実在します」というせりふを藤野さんは新平に言わせている。

 実はこれ、『じい散歩』の連載第1回を校了したとき、掲載誌である『小説推理』の編集部で実際にかわされた会話をもとにしたそう。

「嫌だって言われてもほんとにいるんですから(笑い)。じゃあ最後に新平にこう言わせようか、とそのとき決めました」

 ほんとにいる、というのは明石家にはモデルがいるからで、新平は藤野さんのマネージャーで長年の友人でもある人の父、明石家の3兄弟は藤野さんの家族がモデルである。

「『じい散歩』を書く10年ほど前に友人の実家で法事がありまして。『群像』の締切直前だったので、車で送っていくかわりに、見て書けるものあったら書くよと。お父さんとお母さんの『自分たちの墓をどうするか』というやりとりが面白くて『散骨と密葬』という短篇を書いたんです。子ども世代は別の悩みのあるうちにしようと、自分の家のことと組み合わせました。新平は会社員で、細かい設定は違うんですけど」

 明石家のその後についてはずっと気になっていて、2018年に『文學界』で『じい散歩』の原型と言える短篇を書き、『小説推理』で長篇として連載するときに、改めてモデルにも取材し直した。

 ちなみに『じい散歩』というタイトルも父親がモデルである友人の提案で、言わずもがなではあるが、故・地井武男さんの長寿番組『ちい散歩』をもじっている。

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