「この映画は寺島さんでなければ成立しない」(山田監督)

「この映画は寺島さんでなければ成立しない」(山田監督)

 撮影は都内で1か月かけて行われ、主演の寺島と常盤をはじめ“山田組”常連の小倉蒼蛙(今年、小倉一郎から改名)や、「1日だけ」と舞台公演の合間を縫って駆けつけた渡辺いっけいら有名俳優が入れ替わり立ち替わり参加する。

 夫で映画監督の故・典吾さんと二人三脚でプロダクションを運営していた頃からの旧知であり、『わたしのかあさん』の題字も手掛ける小倉は、「山田監督の根底には優しさがある」と語る。

「苦労人の火砂子さんはとにかく人に優しい。だから、作品には本当の“悪人”は出てこないし、一見悪い人に見えても善人になれるという人間という存在そのものへの尊敬があるんです。

 昔、映画評論家の淀川長治さんが『人情は世界中一緒やね』とおっしゃっていました。人種や宗教が違っても、家に帰ればお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんがいて助け合って暮らす幸せは一緒。映画はそういった人情を描くことで勇気や感動、明日への希望を与えてくれるものだとぼくは思っているのですが、山田監督の作品には間違いなく人情があるし、制作にかかわるすべての人に感謝とリスペクトを持っている。監督として愛される人だと思います」

 実際、常盤は現場でその“優しさ”を肌で感じたと振り返る。それは常盤演じる知的障害の母を持つ娘・高子が障害者施設の園長になり、施設内の廊下で障害を持つ少年にすれ違いざまに「よろしくね」と声をかけるシーンの撮影時のこと。少年の後ろ姿だけが映っているテスト撮影を見た山田さんが「背中だけじゃかわいそうじゃない。映してあげて」と一声。撮影の角度を変更して本番がスタートした。

「『せっかく来てくれたんだから顔を映してあげてよ』って。その優しさってすごいな、と思うんです。完成したとき、自分が映画に映っていたらやっぱりうれしいじゃないですか。親御さんやいつも彼をケアしている周囲のかたがたもハッピーになるし。監督は本当に“映画の力”をよく知っている、と感銘を受けました」(常盤・以下同)

 常盤は2006年に制作された『筆子・その愛—天使のピアノ—』で山田さんの作品に初めて出演し、主演を務めている。日本初の知的障害児教育に取り組んだ石井筆子さんの生涯を描く作品だったが、自ら選んで同作への出演を決めたのだという。

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