「わざわざ調べたりしない」
しかし、水原容疑者のこうした記録が過去に調査されていたとしても、彼を“要注意人物”と判断するのは難しかっただろうと話す鈴木氏。さらにこう続ける。
「こういった記録は特に不動産を賃貸する場合や公務員採用のときにチェックされることが多いものです。彼を球団に所属させるにあたって、エンゼルスやドジャースも調査していた可能性もなくはないですが、これくらいなら見過ごすレベルでしょうね。私も依頼人が誰かと長期の契約を交わす際に、同じように経歴を調べることがありますが、問題なしと判断すると思います。日本ではカリフォルニア州では賭博が禁止されていて、水原氏は罪に問われるとする論調で語る弁護士もいますが、実務に沿っていません。大麻にしろ、賭博にしろ、表面化していない状況ですが、多くの人がやっているわけですので、そこまで重大な問題になりませんし、仮に罪に問われても、教育刑はありますが、実質的に罰することはまずありません。
大谷さんに至っては日本のプロ野球時代からの長い付き合いということもあるでしょうし、おふたりのように長年付き合った親しい人間の記録をわざわざ調べるようなケースはそもそも不要と考えても違和感ありません」
2012年に日本ハムファイターズに採用され、同年末に入団した大谷と接点をもった水原容疑者は、のちに大谷を助手席に乗せて移動するポルシェのハンドルを握ることになる。球団側の検査に問題はなかったのか。鈴木氏が続ける。
「大麻の罪というのは、米国の移民法によると外国籍の人は入国禁止になる罪です。カリフォルニア州法では許されていますが、一方で連邦法、特に水原氏が米国籍を持たずに、アメリカの永住権のみを所持してアメリカに滞在している場合には、複数の薬物の罪で有罪を認めると、国籍が日本であれば、日本に強制送還される可能性があります。
未だ、水原氏の国籍やアメリカに滞在している資格について明らかになっていませんが、そもそも日本国籍であるとすれば、麻薬の使用に関する検査等は球団は選手以外に行っていなかったのか、また、移民法に照らしてなんらかの問題はなかったのか、などは事前に調査されなかったのか」
スピード違反や、アメリカでは珍しくないという大麻を所持した状態で運転する違反をしたから大谷を横に乗せて運転してはいけないということではない。通訳として、あるいは単に運転手としてならば、過去の軽微な違反は問題にならないことは確かだろう。
水原容疑者による不正な口座アクセスや不正送金の方法に注目が集まる中で、学歴の疑惑も含めて彼のすべてを知っていたら、口座開設を手伝ってもらったり銀行とのやり取りでの通訳を依頼することまで全面的に頼っていただろうかという疑問は浮上する。
なぜ違法賭博騒動にいたるまで、これらを見抜くことができなかったのか。現地の裁判資料を読み解くと、さらなる水原氏の意外な動きが浮かび上がった。
(後編に続く)