州法上は「前科なし」
こうして2009年1月、無事に起訴を免れた水原容疑者。しかし裁判資料はここで終わりではない。最後まで目を通すと2014年、すでに彼が日本ハムファイターズの球団通訳として活躍していた年にこの記録は〈破棄〉されていた。この点に関して鈴木氏は指摘する。
「水原氏は“Expungement”という記録抹消の手続きを申し立てて、自分から記録を消す作業を行なったものと思われます。2014年にこれを裁判所が認めて、記録は破棄された。水原氏の起訴内容はカリフォルニア州法に基づいているわけですが、問題はその情報が連邦政府にも送られているということです。
州法については“Expungement”が成立しているので、破棄されています。そうすると民間の就職などでは『前科なし』と言って問題ないのです。一方で、公的な申請、例えばビザや永住権に関わる場合、連邦の仕事に就職する場合などには『法律上、前科はあった』としなければなりません」
残念ながら周囲を裏切り、訴追され水原容疑者。2012年に日ハムに採用された彼は、同年末に入団した大谷と接点を持ったのちに、上述のような抹消手続きをしていたことが裁判記録からは読みとれる。犯罪記録の抹消手続きが認められた2014年といえば、大谷が侍ジャパンとして日米野球に出場し、国際試合デビューを飾った年でもある。その後、大谷はエンゼルスに入団した。
アメリカでは珍しくないという大麻所持での運転という違反。更生プログラムを受け、起訴は取り上げになったことからしても、その経歴だけで水原容疑者のすべてを批判すべきではないだろう。しかし、水原容疑者が日本国籍であり、アメリカの永住権を持っていた場合には、移民法上、強制送還になりえる麻薬の罪に問われ、罪を認めていることは明らかであり、その事実を把握することは事前に可能であった。
また自己申告することも可能だった。幼少期からアメリカに住んでいることから、周囲では簡単にマリファナなどにアクセスできたと思われるが、自身も所持を認めていることから、連邦移民法上、強制送還等のトラブルに発展しかねない内容である。
前稿でも触れた通り、学歴に関する疑義まで含めてすべてを大谷やその周辺が把握していたら、24億円以上を送金したという巨額資金が入っている口座の開設を手伝ってもらったり、銀行とのやり取りに関する通訳まで頼っていたであろうか。
結果的には、水原容疑者はその信頼を悪用したことは間違いない。
(了。前編から読む)