失敗してももがいても100%不幸な人はいない
同作の登場人物たちも、時にもがき、時に諦念を感じながらも周囲の人たちと交わり続ける。不思議なのは、これでもかと痛々しい人たちが登場して胸が抉られる場面もあるのに、読み進めるほどに彼らに愛着が湧いて来て、読後感が爽やかなことだ。
「それはきっとすべての登場人物が当初願っていた未来を誰も実現できず、“失敗”しながらも、一歩踏み出そうと何かしら行動しているからかもしれません。
特に“何者かになる”という価値観が崩れ去った令和では、多くの人が自分が向かうべき方向を探してもがいたり、立ちすくんでしまったり、間違った方向に走り出しちゃったり不安でぐるぐる回り始めちゃったり、平成の頃とは別の苦しみを抱えている。
でも、失敗したからって、どこにも行きつかないからって、不幸なわけじゃないと思うんです。もがくことは幸せに向かうための一歩を踏み出していることだし、迷子になった人たちを責めたくない。……僕、意外と優しいでしょう(笑い)?」
【プロフィール】
麻布競馬場(あざぶけいばじょう)/1991年生まれ。慶応義塾大学卒。「コロナ禍の暇つぶしに」と、2021年10月に始めたTwitterへ投稿していた小説が「タワマン文学」として大きな反響を呼ぶ。2022年9月にショートストーリー集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社刊)でデビュー。