呼び鈴を鳴らしても反応はなかったが、住人はいるようだ

呼び鈴を鳴らしても反応はなかったが、住人はいるようだった

家の中から「犬の声」

 4月12日、ロサンゼルスの連邦地裁前には多くの報道陣が詰めかけた。水原は白っぽいワイシャツに黒っぽいスーツ姿で出廷。韓国・ソウルで3月22日に行方がわからなくなって以降、公に見せた初めての姿だった。

 私はこの4日前、彼の「現在地」を探っていた。冒頭の場面はその日のことだ。水原が住んでいたとされるニューポートビーチの高級マンションは観葉植物に彩られた重厚な門構えで、中に入ると椰子の木に囲まれたプールが目に飛び込んできた。住人たちは上品な雰囲気で犬を連れて歩いている。南国のリゾート地さながらの光景が広がっていた。

 家賃は最低70万円から。面会の意図を告げると、門番は意外にもあっさり私を通した。部屋の前には、アマゾンで注文したとみられる段ボール箱2つが置かれていた。そのうちの1つは、日本のペットボトル緑茶「お~いお茶」が詰まっていた。

 誰かいるのは間違いなさそうだ。呼び鈴を鳴らすと間もなく、中から2匹の犬が吠える声が聞こえてきたが、ドアの方へ向かってくる気配はない。もう一度鳴らしても、結果は同じだった。

 帰り際、門番の詰め所へ行き、部屋に住人がいるかどうかを確認してもらった。門番が部屋番号をダイヤルし、コールが2回鳴った後、ガチャッと受信する音が響いた。やはり居留守だったのだ。電話口から微かに漏れる声には、聞き覚えがあった。そして、門番は私に「住人が会いたくないと言っている」と告げたのだった。

 松木の店を訪れると、以前は誇らしげに飾られていた水原の似顔絵がなくなっていた。

「似顔絵は私の部屋にあります。ここまで騒動が大きくなると正直、言葉が出ないですね」

 失なったものはあまりにも大きい。

(了。前編から読む

【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒。新聞記者、カメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを中心にアジアで活動し、現在は日本を拠点にしている。2011年に『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で開高健ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』(小学館新書)。

※週刊ポスト2024年5月3・10日号

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