問題を解く鍵は編集者目線だと知った岸田さん(撮影/五十嵐美弥)
「<『二人でわんわんと泣いた』とありますが、『弟』と『私』はそれぞれどのような気持ちだったと思われますか>という設問に、私もそこまで考えてないよ……と編集さんに言ったんです。そうしたら、無意識であれ、作者の気持ちは入っているんだよと返ってきて。
編集者の仕事は、作者が文章化した気持ちが読者にきちんと伝わるか、読んだときに矛盾がないか精査することなんですよね。伝えたいことが途切れていたり、何を言いたいかがブレてしまったりしているときに、整理をしてくれる。私の担当編集者曰く、この編集目線というか、情報がエラーなく伝わっているかということを入試では聞いているそうなんです。
素直に作者の気持ちを考えるのではなく、編集目線で『作者はこういうことを言いたい』『だからこの文章がある』ということを理解しているかを問われているのだと教えてもらったときに、なるほどなと思いました。
本を読むときはなにを考えても自由ですが、入試においてはきっと設問の中から矛盾がない答えを導き出すことが重要なんでしょうね」
編集者目線は日本人全員に求められる能力?
編集者目線が入試には必要なのだと語る岸田さん。この目線は、入試を終えたあとの人生にもきっと役立つという。
「人に何かを伝えたい時って、誰でも少なからず編集をしていると思うんです。バラエティ番組の『すべらない話』もそうだし、役所でなにかの助成金を受けたいときだって、自分のすべてを長々と話すのではなく、要点をまとめて『だからこれが必要だよね』『つまり言いたいことはこうだよね』とわかりやすく伝わるように編集して話しますよね。
その力を入試で問うているわけで、編集ってすごく大切な作業なんです。人に何かを伝えることってなかなか難しいから、編集の能力は誰にでも必要なことなのだなと。
きちんと言葉を届ける、そのために情報を整理するのが編集の仕事。これが日本人全員に求められている能力になっているのだと思います」
2022年以降、3年連続で入試問題に出題されている岸田さんのエッセイ。もし、自身の大学入試時に出題されていたら……。
自身のエッセイが出題された受験生への思いを明かした(撮影/五十嵐美弥)
「私、大学入試の受験勉強が本当につらかったんですよ。苦行のような日々を過ごしてハラハラしながら当日を迎えたときに、こんな笑かしてくるエッセイが出題されたら、なめてんのかって思いますよね。だからそのへんは恥ずかしいです(笑い)。受験生のみなさんに、ごめんという気持ちはあります」
【プロフィール】
岸田奈美(きしだなみ)/1991年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立する。 Forbes 「30 UNDER 30 JAPAN 2020」選出。ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が7月9日よりNHKで地上波放送。最新作に『国道沿いで、だいじょうぶ100回』。
取材・文/イワイユウ