妄想で生み出した“恋人”
妄想上の恋人である“ジェフ・ザ・キラー”についても語られた。
「(瑠奈被告にはジェフが)見えているところもあるし、常にその存在を感じていた。ちょっと上のほうを見ながら語りかけていました。
『恋人のジェフから告白されたから披露宴をしたい』と娘に言われて、具体的にどういう式を挙げるのか聞いたら、ここにこう置いて、ここにこう置いてと指示されて、娘がお香を焚いたりして、そこに同席しました」(同前)
検察側は“両親は娘に奴隷扱いされ、支配されている状態だった”と主張しているが、修被告の認識はまた異なるようだ。
「(骨折やアザができるほどの暴力を振るわれたことは)ありません。(暴力が怖いと思ったことも)ありませんが、興奮して娘の精神が追い詰められていくことが怖いと思いました。娘の心がこれ以上壊れないようにするためにどう接するのがいいか、自分で主体的に行動を選択していました。娘に無理強いされていたとか、暴力に支配されていたとかは、ありません」(同前)
修被告によると、小学生時代から事件に至るまで、瑠奈被告が両親以外に暴力を振るったことはないらしい。“小動物を殺した”といった話を聞いたこともないという。
「よく言う『虫も殺さない』ような……家の中にハエや虫が入ってきても、それを潰すんじゃなくて、外に逃すような、そういう子でした。逮捕直前までずっと変わらず……」(同前)
修被告には、瑠奈被告の心優しい面も見えていたのだろう。とはいえ、彼女が深刻な状態にあったことには変わりない。「措置入院は考えなかったのか」という弁護側の質問に対して、修被告が「“自傷を継続している”などの措置入院の要件に該当していない。医療保護は、本人の同意に基づいて行わなければならない」と答え、精神科医としての顔をのぞかせる場面もあった。
10年以上にわたる、異常な家庭環境。一体いつどのようにしていれば、この惨劇を回避することができたのか。
◆取材/高橋ユキ(ジャーナリスト)