竹中組長が入院した病院に詰め寄る山口組組員と機動隊員(写真/共同通信社)
3か月後なら時効廃止
しかし後藤容疑者は強運の持ち主だった。竹中四代目射殺事件は、公訴時効が撤廃されるギリギリで時効が成立しており、もはや罪に問えないのだ。
当時、殺人の公訴時効は25年である。1985年発生の殺人事件は、2010年に時効となるが、この年の4月27日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立・同日公布され、殺人罪の時効が廃止されている。事件がもし3か月後だったら、後藤容疑者は一生追われる運命だった。
もし時効が成立していなかったら、裁判はどうなったか?
竹中四代目射殺事件は、2系列のヒットマン部隊が合流し、協力・連携して殺害を実行している。竹中四代目が囲っていた愛人のマンションを突き止め、2階の1部屋をアジトとして借りていたのは、一和会でも他の組織の組長だった。
山広組のナンバー2だった後藤容疑者はその組長に談判し、ぜひとも自分に殺害実行役を譲ってほしいと懇願した。申し出を承諾し、アジトをはじめ武器を提供したこの組長は、もうひとりの指示役と認定され、暴力団事件の量刑が軽かった当時でも死刑が求刑され、無期懲役の判決が出ている。直属指揮官だった後藤容疑者なら、死刑でもおかしくない。
「今は社会秩序への挑戦と解釈され、暴力団事件の判決は重い。3人を射殺した事件の指示役ですから、現在、同様の事件を起こせばほぼ死刑です。ただ裁判は行為時の法律が前提なので、同じような立場の共犯者が無期なら量刑を揃えるかもしれない」(法政大学で弁護士実務を教え、暴力団事件の弁護経験がある坂本正幸弁護士)
報道によると「捜査関係者は取材に『今後、事件について任意で事情を聞くことはできる』」(9月3日付読売新聞)そうだが、事件の担当である大阪府警や警察庁にとってはいまさらだろう。
警察は慢性的な人手不足の上、告訴案件がやたら多い。いにしえの抗争事件にかかずらう暇はない。ある警察関係者はいう。
「ベテラン捜査員たちに一種の懐旧はあるだろう。でも根掘り葉掘り訊いたところでどうにもならない。長崎県警も過去の抗争事件に興味はないはず。名誉毀損云々も身柄を確保するための引きネタで、本当は被害者が自殺に至った件をきっちり解明したいのだろう。勾留できる22日間の間にやれることをすべてやるという腹づもりでは」