西一──『いなかっぺ大将』
「パーやん」「マンモス西」はいずれも強い個性を持った関西弁キャラであったが、次に示す西一(にしはじめ)も忘れ難い印象を残すキャラである。
『いなかっぺ大将』は川崎のぼるによるギャグマンガで、1967年から1972年に、小学館の学年誌に掲載された。青森から上京してきた主人公の風大左衛門(通称「大ちゃん」)が一流の柔道家をめざしてニャンコ先生とともに奮闘する物語である。
西一は大阪出身で途中から転校してきたという設定で、大左衛門にしょっちゅうイタズラや嫌がらせをしかける、嫌みな子どもである。やせっぽちでメガネをかけており、妹も母もそっくりな容姿をしている。主人公の大左衛門が青森方言の話者で、よく失敗はするが天真爛漫で明るいキャラクターとして描かれているのに対し、関西弁を話す西一が陰険なキャラクターとして描かれている点が興味深い。
なお、作者の川崎のぼるは1941年生まれの大阪市出身である。西一のセリフは、1960~70年代の小学生の台詞としてはあまりに古くさいコテコテ大阪弁であるが、細かい点でかなり正確な表現となっている。
西一「このさい本人のためにもはっきりいうてやったほうがよろしゅおますのんとちがいまっか!」
大左衛門「むふっ? 西一!」
西一「大左ヱ門おまえはなかわいそうに落第したんや/そやさかいわてらといっしょに五年にあがることはできんのや/わかる? 落第やで!」
(川崎のぼる『いなかっぺ大将』【1】)
なお、『あしたのジョー』のマンモス西も、『いなかっぺ大将』の西一も同じ「西」という苗字であるが、これはもちろん「関西」の「西」であり、舞台となる東京の人々にとって異人である「西」の人間、ということを象徴していると考えられる。
(中略)
“古典的”な関西弁キャラの特徴
以上に見たように、古典的な関西弁・大阪弁キャラクターは、ねちねちした敵役とか大食いキャラとか、癖の強いバイプレーヤーが目立つのである。また見た目の点でも、小太りであったり、やせっぽちのメガネ・キャラであったりと、癖のある風貌で、異物感が甚だしく、またそれゆえに女性にはもてそうにない。現にパーやんはパー子に「いやあねえ」と言われているし、西一も、大左衛門へのきつい言葉に対してクラスの女子に「なにもそんなひどいいいかたをしなくてもいいでしょう」と叱られている(マンモス西は後に好人物となっていく点が例外的とも言える)。
ちなみに、ここに挙げたキャラクターが生まれたのは、1966年から1967年に集中している。東海道新幹線開通が1964年、日本万国博覧会が1970年であったことを踏まえると、関西に対する注目度が高まっていた時期と言える。
(第2回に続く)