国家安全保障局長を駐米大使より上席に
一方、台湾有事をめぐる対米交渉でキーマンになるのが市川恵一・国家安全保障局長だと見られている。
外務官僚で北米局長や内閣官房副長官補を歴任し、石破内閣では駐インドネシア大使に赴任する人事が発令されていたが、高市首相が辞令を取り消してまで国家安全保障局長に起用した。
「高市総理の外交ブレーンとなっているのは安倍政権時代で総合外交政策局長、外務審議官(政務)、そして外務事務次官として長く仕えた秋葉剛男・元国家安全保障局長。その秋葉氏が『市川なら台湾有事の対応が任せられる』と総理に強く推薦したと聞いている」(外務省関係者)
迎賓館で行なわれた日米首脳会談での“異例の席次”からもそのことが読み取れるという。本来なら対米外交の中核を担うはずの山田重夫・駐米大使がテーブルの端の席でスティーブン・ミラー大統領次席補佐官の対面に座り、それよりも上席のスージー・ワイルズ大統領首席補佐官の対面に市川局長の席が設営されていた。その並びからも「高市総理の重用ぶりが窺える」(同前)という。
「トランプ政権の防衛政策のすべてを作っているのはエルブリッジ・コルビー国防次官で、彼が台湾をどう見るかが今後の有事対応のカギを握る。コルビーのカウンターパートとして選ばれたのが市川氏で、台湾有事に向けていかに米国を本気にさせるかは彼の肩にかかっている」(同前)
これまで対中強硬路線を敷く“タカ派”として知られてきた高市氏だが、一国の総理となれば、威勢のいい発言ばかりしていればいい立場ではなくなる。トップ同士のやり取り、水面下の外交交渉やそこにあてる人材の登用などをめぐる“仕掛け”も、ひとつ選択を間違えれば国家の危機を招きかねない。政権の船出とともに打たれた布石が今後、どのような結果をもたらすのか。そして、高市首相は本当に中国の膨張を止められる政治家なのか。これから真価が問われることになる。
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※週刊ポスト2025年11月21日号