赤穂市民病院の医療事故に関する漫画を巡る訴訟で、モデルの医師を提訴し記者会見した漫画の作者の代理人弁護士(2025年3月11日、時事通信フォト)
ドリルに神経を巻き込み切断
『脳外科医 竹田くん』の作者は、松井医師が関わった手術のなかで、2020年1月22日に起こした医療事故の被害者親族である。被害者は当時、松井医師から「重度の脊柱管狭窄症」であると告げられ、「早急に腰椎後方除圧術を実施したほうが良い」「腎機能がさらに悪化した場合には人工透析になる」などと説明され、入院と手術を勧められ承諾した。
ところが松井医師を執刀医、脳神経外科長のA医師を助手とした手術の日、松井医師はドリルによる骨切除の最中に硬膜に触れ、ドリルに神経を巻き込み切断したのだった。
のちに被害者と家族が、赤穂市と松井医師を相手取り提起していた損害賠償請求訴訟の判決文で、神戸地裁姫路支部はこう認定している。
「出血等により視認性の確保が十分ではないのに止血をこまめにしないままスチールバーによる骨切除をすすめたところ、スチールバーが硬膜に触れて硬膜が裂け、逸脱した索状の馬尾神経をスチールバーに巻き込んで複数本を切断損傷した」
これにより被害者は両足関節の機能不全や重度の膀胱直腸障害や疼痛が残り、永続的に鎮痛剤の投薬が必要な状況となった(判決文より)。
この民事裁判では2025年5月14日に、医師と市に対して、合わせて約8900万円の支払いを命じる判決が言い渡されており、双方控訴せずに確定しているが、これで終わったわけではない。現時点で刑事・民事合わせて複数の裁判がいまだ進行中である。
まずは一連の医療事故が起きた翌年である2021年2月、松井医師は「赤穂市民病院の脳神経外科長のA医師から、階段踊り場に転落させられた」として傷害罪での告訴状を提出。同年4月には対するA医師も松井医師を虚偽告訴罪で告訴するという“告訴合戦”が繰り広げられた結果、いずれも不起訴という結末を迎えていたのだ。これは松井医師が赤穂市民病院に勤務していた2020年7月10日の出来事が問題となっている。
松井医師側は、「A医師の診療方針がかねてより一貫せず、その責任を部下である松井医師に押し付けられていたため度々口論となっており、ストレスを感じていたなか、A医師から理不尽な暴力まで受けていた」と主張しており、事件の日も「激しい叱責を受けたため逃走したところ、A医師が追いかけてきたうえに、エレベーターホール前の階段付近で胸を押されたことから、身体が一回転して階段の踊り場に落ちた……」と訴えていた(告訴状・判決文より要約)。
