“告訴合戦”は双方の訴えが棄却

 一方のA医師側は、A医師が管理しているカンファレンスルームの鍵を松井医師が所持していたことから、返却を求めてエレベーターホール前の階段付近で鍵を持っている松井医師のほうに手を伸ばしたところ、松井医師が階段を慌てて降りようとして踊り場に転落したのだ……と反論していた(告訴状より要約)。

 双方の告訴状は受理されたのち不起訴という処分となっているが、一件落着とはならず、松井医師は2023年、この件についてA医師らを相手取り、民事訴訟を神戸地裁姫路支部に提起。A医師も反訴する事態となった。判決は今年9月に言い渡されており、双方の訴えは棄却されているが、問題となっていた“階段踊り場への転落”について裁判所は“松井医師が足を踏み外した可能性も否定できない”旨、認定している。

「本件転落について、被告Aが原告(松井医師)を思い切り押して階段から突き落とした旨の原告の主張及び供述を採用することができず、被告Aが主張及び供述するとおり、本件転落は、原告が誤って足を踏み外した結果生じたものである可能性を排することができない」(判決より)

 加えてこの訴訟で松井医師は「専門医試験の出願において、提出した手術症例リストに誤りがないことを証明する証明書」をA医師に求めていたというが、A医師がこれにサインをしなかったことで出願できなかった、とも訴えていた。A医師が試験の妨害をしたとも取れる主張であったが、裁判所はこの主張も排斥し、次のように認定している。

「原告が提出期限直前に作成した修正版の症例報告リストには、被告Aの照合作業の結果、少なくとも7症例について術者の記載内容に誤りがある疑いが残っていた。そうすると、被告Aが、原告の修正版に誤りがないことを証明する趣旨で本件証明書に署名しなかったことには、正当な理由がある」(判決より)

 つまり松井医師からサインを求められた書類が間違っていたため、サインをしなかったことには理由があるという判断である。

後編につづく

取材・文/高橋ユキ(フリーライター)

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