米当局者に連行されるマドゥロ大統領(AFP PHOTO / X account of Rapid Response 47)
中ロは軍事行動に出るか
仮にトランプ氏が金正恩氏の身柄確保を強行すれば、世界は喝采するか。
中国・ロシアは即座に「主権侵害」「国際法違反」と非難するだろう。特に中国にとって北朝鮮は地政学上の緩衝地帯であり、米国が朝鮮半島の力学を一方的に変えることは容認できない。
韓国でも世論は分裂する。人権や拉致問題解決への方向性には共感を示しつつ、「戦争の引き金になるのでは」という恐怖が広がる。
欧州諸国も全面的には乗らない。国連が「人道に対する犯罪」を認定しても、国際刑事裁判所(ICC)への正式付託や国際合意がないままの拘束は前例として危険すぎる。
つまり、これは「正義の執行」ではなく、国際秩序そのものを賭けた賭博である。
ワシントンの外交官は語る。
「問題は、トランプ氏がリスクだと思うかどうかだ。彼は法の精緻さより、『結果と見出し』を重視する。史上初めて北朝鮮の独裁者を裁きの場に引きずり出した大統領──この一行が歴史に刻まれれば、国際社会の非難など計算に入らない可能性がある」
日本にとっては諸刃の剣だ。拉致被害者救出という悲願に近づく一方で、地域安定を失うリスクも背負う。日本単独では絶対にできないが、トランプ氏ならやりかねない。いや、やってくれるかもしれない。
米学者は指摘する。
「彼の論理は単純だ。『悪い奴は悪い』『人権を踏みにじる独裁者は制裁されるべき』『拉致被害者がいるなら行動しない方が罪』。
トランプ氏は国際法の細部より、テレビに映る“物語”を重視する。拉致被害者家族と握手し、涙ながらに語る姿を何度も演出してきた。そこに『金正恩拘束』という結末が加われば、完璧な政治的ストーリーになる」
「初夢」のような話が現実政治のアジェンダとして浮上しては消えていく。夢から覚めたとき、残るのは救出か、混乱か、あるいはその両方か。
トランプ氏の「盟友」であることを強調する高市早苗首相に、この「初夢」を話したら、どんな反応を示すだろうか。それは、日本が同盟に何を託し、どこまで覚悟しているのかを問う問いでもある。
◆高濱賛(在米ジャーナリスト)
