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仕事をしない「年金詐欺パラサイト息子」を親が叱れぬ理由

 戸籍上は「生存」しているのに所在がわからなくなっている100歳以上の高齢者は23万人。「行方不明老人」問題は、長寿大国ニッポンの裏側を炙り出した。親が死んでも届け出ずに、年金を受け取り続ける、年金詐欺といった問題をも引き寄せる。同居したまま働かずに、親の年金をあてにする“年金パラサイト”。「パラサイト・シングル」や「格差社会」などの言葉を広く浸透させ、家族をめぐる問題について考察を加えてきた山田昌弘・中央大学教授が、その実態を紹介する。

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 年金パラサイトしている子供にとって、“金蔓”(かねづる)である親が老人ホームにでも入居してしまうと、自分が食えなくなる。介護などできなくても、とりあえず一緒に暮らし続けるため、いざ介護が必要となった親をどう扱っていいかわからずに放置するという形で虐待が生じてくるケースはままある。

 同居したまま働かない息子を叱咤せず、そのあげく放置や虐待をされて親はなぜ黙っているのか、と疑問を感じる人もいるだろう。

 親の側が声をあげて助けを求めることができない理由は、こんな子供を育ててしまったという親の“罪の意識”に関わりがある。

 私が関わった年金パラサイトの親の事例では、息子は多少の仕事には就いていたが、自宅にいると、親を叩くなどの暴力行為がたびたびあった。ところが驚いたことに、その親の相談は、「もし私が死んだら、この子はストレスをどこで発散すればいいのか」ということだった。

 親の側には、同居したまま働かない我が子に対し、こうなってしまったのは自分の育て方が悪かったからだという自責の念がある。それが、SOSを発するブレーキとなってしまっているのだ。

 しかも、こうしたお年寄りには、例外なく“超高齢者の罠”がある。

 罠とは、年を取るとともに、必然的に友人、知人の数が減っていくことを意味する。同世代で分かりあえた相談相手が物理的に少なくなり、孤立してしまう。体も弱り、外出にも不自由が生じるようになる高齢者が、新たに若い友人を持つことは、極めて困難であろう。

 生前の虐待や放置に留まらず、年金を掠め取るために死んでからも放置されるのでは、たまったものではない。

※SAPIO2010年10月13・20日号

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