スポーツ

流しのブルペンキャッチャー「巨人・沢村は15勝するかも」

 学生時代、早大野球部に在籍していたが、腕前は捕手10人中10番目。それでも、いつかは野球の仕事に就きたくて……卒業後も会社勤めの傍ら、アマチュア野球観戦で全国を飛んで、チャンスを探っていた。そんな安倍昌彦氏が40歳を過ぎて巡りあったのが雑誌『野球小僧』(白夜書房刊)のライター業。

 そして2000年、アマチュア有望投手の球を直に受け、その「球の味」を文章に認める人気連載をスタートさせる。人呼んで「流しのブルペンキャッチャー」。本誌初登場の今回は、注目の「斎藤世代」を一刀両断!

 * * *
 巨人・沢村拓一投手の評判がよさそうだ。
 
 11日には打撃投手として、阿部、小笠原、ラミレス、高橋由伸といった球界を代表する強打者たちを、その「剛速球」で抑え込んでしまった。打撃投手が打者を抑え込んではいけない。打ってもらうために、つまり打者の練習のために投げるという「役回り」を理解していなかったようだ。

 彼にはそういう「かわいい」ところがある。一生懸命なのだ。

「同世代と比べられたくない」などとトンがった発言をして、ビッグマウスと言われたりしているが、根っこは、不器用でまっすぐな愛すべき青年である。

 沢村投手のボールは、彼が4年生になる少し前の寒い時期に受けさせてもらった。シーズンに入れば忙しくなるのはわかっていた。機会を逸するのが怖くて、オフの時期にお願いした。

「足首痛めてるんで、キャッチボールに毛が生えた程度でいいすか?」

 そんなことを言っていた彼のボールが、立ち投げの2球目からガラッと変わった。怒ったような腕の振り。凶暴なボールが次々、こちらのミットに叩き込まれる。

「だいじょぶ?」

「ぜんぜん平気っす!」

 足、痛いって言ってたじゃないよ……。

「150近くいってるんじゃないですか」

 立ち会ってくださったコーチの方も、沢村投手をなだめるのに一生懸命。投げる沢村、一生懸命。受ける流し、もっと一生懸命。ONとOFF。それしかないのだ。初めてつとめた打撃投手でも、思わず「ON」のスイッチが入ってしまった。沢村拓一に悪気はない。

 腰を下ろして、さらにスピードアップ。彼がいったんモーションを起こしたら、もうまばたきはできない。ミットが間に合わない。

 昨春のリーグ戦、中央大・沢村拓一は150キロ台のスピードをいく度もマークして、しかし6本の本塁打を奪われた。中には、154キロを左打者にレフトに放り込まれたことも。そういう「150キロ」だった。その証拠に、私ごときがなんとか受けられてしまった。必死だったが、それでも捕球できた。そういう「150キロ」。

 上体のパワーにまかせた剛速球は、打者の手元であまりスピードを感じない。肝心なのは、「体感スピード」である。

 このピッチャーが本気で緩急を使う気になったら、誰も打てない……。

 沢村投手、変化球だって、高速スライダーに、カーブに、フォーク。コントロールを勉強すれば、切れ味は一級品の「飛び道具」ばかりなのだ。そして、昨秋、彼のピッチングは一変。本気で緩急を使いだした。防御率は0点台をキープ、春は6本奪われた本塁打は1本も許さなかった。

 そして15日の紅白戦、一軍レギュラーや若手のホープ5人をピシャリと抑えた沢村拓一。スライダーでカウントをとり、フォークで三振を奪った。

 稀代の緩急の使い手――プロで奮闘する巨人・沢村拓一の姿を想像すると、こうなる。その「線」を外さないことを条件に、1年目から15勝っても、ちっともおかしくない「緩急の沢村拓一」である。

■あべ・まさひこ/1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院を経て、早稲田大学に。同大野球部で捕手として大学2年までプレー後、3、4年時は早稲田大学高等学院で監督を務める。卒業後、サラリーマン生活を送った後に、スポーツジャーナリストに。

※週刊ポスト2011年3月4日号

関連記事

トピックス

5月8日、報道を受けて、取材に応じる日本維新の会の中条きよし参議院議員(時事通信フォト)
「高利貸し」疑惑に反論の中条きよし議員 「金利60%で1000万円」契約書が物語る“義理人情”とは思えない貸し付けの実態
NEWSポストセブン
殺害された宝島さん夫婦の長女内縁関係にある関根容疑者(時事通信フォト)
【むかつくっすよ】那須2遺体の首謀者・関根誠端容疑者 近隣ともトラブル「殴っておけば…」 長女内縁の夫が被害夫婦に近づいた理由
NEWSポストセブン
曙と真剣交際していたが婚約破棄になった相原勇
《曙さん訃報後ブログ更新が途絶えて》元婚約者・相原勇、沈黙の背景に「わたしの人生を生きる」7年前の“電撃和解”
NEWSポストセブン
なかやまきんに君が参加した“謎の妖怪セミナー”とは…
なかやまきんに君が通う“謎の妖怪セミナー”の仰天内容〈悪いことは妖怪のせい〉〈サントリー製品はすべて妖怪〉出演したサントリーのウェブCMは大丈夫か
週刊ポスト
令和6年度 各種団体の主な要望と回答【要約版】
【自民党・内部報告書入手】業界に補助金バラ撒き、税制優遇のオンパレード 「国民から召し上げたカネを業界に配っている」と荻原博子氏
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン