芸能

橋田壽賀子『おしん』で提起「これ以上の経済的豊かさ不要」

 1990年代、視聴率20%超えが当たり前だったドラマは、今や視聴率10%を超えれば“合格”といわれる。“ドラマ離れ”と言われ始めたのは、いつからだろう。

 歴史を振り返ると、1958年に制作された日本初のテレビドラマ『私は貝になりたい』(TBS系)に始まり、かつては社会現象を巻き起こすドラマが毎年のように誕生していた。

 例えば、民放ドラマの中で、過去最高の視聴率45.3%を記録したのは1983年の『積木くずし―親と子の200日戦争―』(TBS系)。

 放送当時、学校の教育現場では「いじめ」や「非行」が深刻な問題となり、自宅でも「家庭崩壊」が起こるなど、多くの保護者たちが悩みを抱えていた。親子問題のリアルな現実を描いたこのドラマは大反響を呼び、視聴者の心は揺さぶられた。

 ドラマ批評家のこうたきてつやさんが言う。

「1970~1980年代までは人間の業や人情など人の心をじっくりと描いたドラマが多かった。NHKの『ドラマ人間模様』(1976~1988年)などもまさにそうで、山田太一さんや向田邦子さんらがオリジナルの脚本を書いて良質のドラマを生み出すとともに、その後の活躍の礎を築いていました」

『積木くずし』がヒットした1983年は、NHKの朝ドラ『おしん』が放送された年でもあった。平均視聴率で52.6%という国民的ドラマとなった『おしん』は、日本のみならず世界66か国でも放送され、絶賛された。

 脚本家の橋田壽賀子さん(87才)が当時、『おしん』に込めた思いを振り返る。

「あのころのテレビドラマは、脚本家が“これを訴えたい”というメッセージを込めて、テレビ局のプロデューサーや演出家もそれを理解してドラマ作りに心血を注いでいました。当時、日本はどんどん豊かになっていましたが、私が『おしん』に込めたのは、“もうこれ以上経済的に豊かにならなくてもいいのでは”“身の丈にあった幸せを考えてみてはどうですか”というメッセージでしたね」

『積木くずし』のようにその時代のリアルな問題をえぐるドラマもあれば、『おしん』のようにその時代に失われつつあるものを改めて問いかけるドラマもあった。国民の胸を打つドラマには、皆メッセージがこもっていたという。

 1980年代後半から1990年代初めにかけては、バブル景気や女性の社会進出を反映したトレンディードラマが人気を博した。「月9」ブランドを築き上げたフジテレビの『東京ラブストーリー』(1991年)『101回目のプロポーズ』(同)は30%を超え、社会現象に。この時期に青春を過ごした30~40代には、「あのころのドラマがいちばん面白かった」といった感想を口にする人も多い。

※女性セブン2012年9月13日号

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