芸能

最高の離婚「妻は結局、鬼嫁か泣く嫁の二択」に女たちが共感

 テレビ局がスポンサーを集め、綿密なリサーチをした上で最適と思しきスタッフとキャストを配し、視聴率に一喜一憂しながら精魂込めてつくりあげるドラマは、ひとつの世相だ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が今回分析するのは、木曜22時枠である。

 * * *
「妻たちのホンネを反映してくれている」と、話題を集めているドラマがある。木曜日夜10時オンエアの『最高の離婚』(フジテレビ系)です。

 初回視聴率は13.5%。じりじり下がって一時は危なく一桁という危機もあったけれど、前回6話では12%台まで盛り返してきました。ねばり強い力をみせるこのドラマ、どこに魅力があるのか。

 登場人物は、2つのカップル。細かくて几帳面な濱崎光生を演じるのは瑛太。ちょっとズボラでマイペース、夫と正反対の妻・結夏を演じるのは尾野真千子。そして、複数の女との関係が精算できないルーズな男、上原諒を演じる綾野剛。その諒を好きだけれど許すことのできない灯里が、真木よう子。

 離婚したけれど一緒に暮らしている2人。結婚していないのに一緒に暮らしている2人。4人の男女が、からみあいつつぶつかる人間ドラマです。

 人物設定自体がちょっと風変わりですが、ドラマの「構造」はもっと風変わり。毎回、ドラマの前半と後半とで雰囲気がガラりと変わる。陰と陽。白と黒。まるで、二部構成の舞台のように。

 前半は、ああいえばこう言う、ちょっとコミカルなコトバの応酬。軽口を叩き合う男と女。後半は、5分をこえる長ゼリフに、シリアスな本音。震撼する言葉を相手に叩き付けるシーンが用意されている。

 たとえぱこんなセリフ。

「いい加減に認めたら。私はずっと前から気づいているよ。あなたは私のことなんて好きじゃないの。あなたが好きなのは自分だけなの」

「男が子供だから女はこうなるの。妻って結局、鬼嫁になるか、泣く嫁になるかの二択しかないのよ。馬鹿馬鹿しい。夫婦なんて茶番だよ」

 激しく言い放つ尾野真千子。そうそう、と心の中で拍手を送ったお茶の間の女たちが何人いたことでしょう。

 前半と後半で雰囲気が変わりまるで二部構成のようと指摘しましたが、前場は後場を盛り上げる「助走路」になっているのかもしれません。

 もしかしたらこの構成は、後半の「決めゼリフ」、女たちからのシリアスな言葉を、より響き渡らせより際立たせるために、敢えてねらった仕掛けかも。

 ちょっとおちゃらければ流せてしまう。軽い話題でごまかしてしまう。それでも続く男女の仲。そんな現実の中で、結局はリスクを引き受けることになる女たち。夫や彼氏が、「女たちの気持ちをどれほど理解していないか」「気持ちを踏みにじるような行動を軽率にとっているか」「そのために女たちがどんなつらい気持ちになっているか」。すべてが、そうした根本をくっきりと印象的に描くための、仕掛けだとしたら……。

『最高の離婚』というコンテンツによって浮かび上がったものとは、男と女のコミュニケーションの不在と、その解決の不可能性なのかもしれません。今、テレビドラマの世界はスリリング。女と男の「幸せ」をめぐって、多種多様な描き方が実験されている。『最高の離婚』の4人はどうやって本当のシアワセを掴むのか? 今後の展開に注目です。

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