スポーツ

村山実氏 ライバル視した長嶋茂雄氏を一度だけ認めた事件

 スポーツライターの永谷脩氏が往年の名選手のエピソードを紹介するこのコーナー。今回は、“ザトペック投法”で知られた阪神のエース・村山実氏と、彼の終生のライバル・長嶋茂雄氏とのエピソードを紹介しよう。

 * * *
 漫才コンビ「星セント・ルイス」のネタ、「田園調布に家が建つ」ではないが、昔の高校球児は「阪神で活躍すれば芦屋にマンションが建つ」と憧れていた。理由は芦屋川と国道43号線に面した場所にある、阪神・村山実が建てた「芦屋マンション11」。甲子園に出場する球児たちは、朝の散歩中、宿舎近くにあるこの5階建ての建物を見上げては、大投手を夢見ていた。

 権力の権化のような東の巨人に刃向かう西の阪神は、反骨の象徴。その中心が村山だったから球児にも人気があった。村山について、阪神の後輩・江夏豊に話を聞いたことがある。

 江夏が新人の頃のこと。今のようにコーチが手厚く教えるのではなく、技は自分で盗めという時代で、江夏は憧れの村山が投球練習を始めたと聞くと、いつもブルペンを覗きに行っていた。だが村山はその度に投球をやめてしまうという。私が「大エースなのに人が悪いですね」と言うと、江夏はこう答えた。

「アホか。プロとはそういうものというのを教えてくれたんや。ワシをライバルと見てくれただけでありがたかったよ」

 そんな村山が終生ライバル視していたのが長嶋茂雄である。天覧試合(1959年)で打たれた本塁打について、最期まで「あれはファールだ」と譲らなかった。その理由は「長嶋といえども、当時は俺の速球を振り切れるわけがない」というもの。これぞプロの意地だった。

 ただ、村山は一度だけ長嶋を認めたことがある。77年の後楽園での巨人戦、暴徒化した巨人ファンが物を投げ入れ、試合が中断した時、当時監督だった長嶋がライトスタンドに向かって帽子を脱ぎ、「頼むから野球をやらせてください」と頭を下げた。その姿に場内が静まり、試合は続行された。村山がこの時、「ワシが甲子園で同じことをしたら静かになるやろか」と呟いたのが印象的だった。

■永谷脩(ながたに・おさむ)/1946年、東京都生まれ。著書に『監督論』(廣済堂文庫)、『佐藤義則 一流の育て方』(徳間書店)ほか

※週刊ポスト2013年6月14日号

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン