芸能

橋田壽賀子新ドラ「なるようになるさ。」の長セリフに違和感

 作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏は、今クールも精力的にドラマをウォッチしている。あの大御所の作品についても、舌鋒鋭く斬り込んだ。

 * * *
 いよいよ各局の番組内容が見えてきた連続ドラマ。見方、楽しみ方、味わい方はいろいろあります。でも……。

 そもそも、ドラマにおけるセリフとはいったい何なの? どんな役割・機能を持っているの? 原点について考えさせてくれるユニークなドラマが始まりました。

 大御所脚本家、橋田壽賀子氏16年ぶりの新作連続ドラマ『なるようになるさ。』(TBS系毎週金曜10時)。主演は、舘ひろしと浅野温子。定年を間近に控えた夫婦が、自宅レストランを開業。店をめぐってさまざまな出来事が勃発する、というホームドラマです。

 橋田ドラマといえば、長ゼリフがお定まりのスタイル。台本数ページにわたるセリフも当たり前という世界。今回は午後10時スタートということで、「渡鬼」世代以外の新たな視聴者層も開拓しよう、と意欲満々とか。

 ということで、あらためてその世界をじっくりと聞き・見てみたのです。放送第1回目、3人の息子を前に浅野温子演じる母・綾が思いを口にするシーン。

「……今までどれくらい食事のしたくをしてきたか。かあさんにはたいへんな経験だし大事な財産でもあるのよ。あなたたちはかあさんの作るものをいつもおいしいと食べてくれた。かあさんにはそれがどんなにうれしかったか。あなたたちの喜ぶ顔が見たくて毎日毎日今日はどんなものを作ろうかって考えてきた。それがかあさんの生き甲斐だった。幸せでもあった。だから専業主婦をやってこられたのよ。そうやって今まで全身全霊で作ってきたものをもう作れなくなるなんてさみしいじゃない……(続く)」

 と、切れ目無く一定の調子で言葉を紡ぎ続けていく浅野温子。そこへ息子のセリフが返ってくる。

 とにかく間がない。余白がない。見ているこっちも、息つく暇が無い。

 こうしてセリフを文字に書き出してみると、はたと気づきませんか? 作家が言いたいことが、「セリフの言葉」の中にすべて込められていることを。映像や演技がなくても、台本を読むことで十分に作者の思いが伝わってくる。いわば、文学作品を朗読しているかのよう。だとすれば、演技者が演技をする意味、「ドラマ仕立て」にして私たちが視る意味とは果たして……?

「ドラマでしかできない表現」とはいったい何なのだろうか? ドラマの醍醐味とは……? ドラマだからこそ伝えられることって?

 ついテレビドラマの原点の原点について考えさせられてしまう。そんなドラマを書くところがさすが大御所の橋田さんです。

 視聴者はドラマを見ながら、余白の中に自分の思いを投影していく。自分にとってどうなのだろうかと、余韻の中で問いかける。「そうそう」と同調したり、「私ならどうする?」と振り返ったり、「私もそこを悩んでいたのよ」と確認したり。ドラマの醍醐味とは、そうやって視聴者自身がドラマに参加することで得られる「共感」にあるのではないでしょうか。

 もし、画面から大量の言葉が一方的に流れ出して延々と言葉が続いていくとすれば。そして、人間関係の「あわい」までがすべて言語に置き換えられて、とうとうと耳からなだれこんでくるとすれば。

 視聴者の思いが入り込む隙が、あまりに小さくなってしまわないでしょうか?

 脚本家、演技者、演出家、テレビの前の視聴者。ドラマはその「四角形」によってできあがるものではないでしょうか。「ドラマはセリフが長いから面白いという問題ではなく、どう表現するかが大事」と制作発表会見の場で舘ひろしさんは言ったそうです。

 まったくそのとおり。橋田世界を上手に表現し料理していって欲しいものです。

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン