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みうらじゅん氏 2006年の「ひこにゃんビフォーアフター」指摘

 拡大を続ける「ゆるキャラブーム」。名付け親であるみうらじゅん氏が、現在のブームや「ゆるさ」の変遷について語った。

 * * *
「ゆるキャラ」に限らず、ブームと呼ばれるものはある程度、誤解がなきゃ発生しないと思うんですよ。それで全然いいんだけど、ゆるキャラも、いまや完全に「かわいいキャラクター」ってことに変わってるでしょう。本来は逆だったんだけどね。

 そもそも僕が10年以上前に「ゆるキャラ」って名付けた世界は、彼らが大きく「キャラクター」という中にいて、とても違和感を感じていたから。キャラクターというのは、ミッキーマウスとかキティちゃんみたいに誰もが知っていることが前提だと思うんですよ。「キャラが立つ」って言葉通り。

 でも、当時のご当地キャラは、地元の人にすらあまり知られていなくて、子供も寄り付かない始末。ほら、子供は知らないおじさんが近づいて来たら逃げるように教えられてるからさ。物産展の会場で、誰にも近寄られることなく、半分空気抜けた状態の着ぐるみが所在なさげに立っている。その姿にぐっと来て、彼らの「ゆるさ」を既存のキャラクターと区別するために「ゆるキャラ」と名付けたんです。

 で、ゆるキャラを集めたイベントを開催したり、『SPA!』で連載を始めたりしたんだけど、当時は地方の自治体に写真貸してくださいっていっても、「うちはゆるくないんですよ」って憤慨する方もおられて。

 それがブームになったら突然、「うち、ゆるいからどうですか?」って先方から売り込みがかかるようになったんですね。僕はその状態を「ひこにゃんビフォーアフター」って呼んでますが、(2006年の)ひこにゃんブーム以降、「地方が面白い」ってなって、ゆるキャラが独り歩きしはじめたんですね。と同時に、作る側の気持ちも変わった。

 ひこにゃんビフォーの、クラシカル・ゆるキャラは自治体側の思い入れが詰まった、それはそれは「詰込み型」なんですよ。特産物が5つあったら、全部入れたいと思うのが人情じゃないですか。ネギが有名だったら身体をネギにする、いや枝豆もあるから指を枝豆にしようとか、そのトゥーマッチがどんどんシュールになっていく、要するに足し算のデザイン。

 その当時僕が好きだった広島の「ブンカッキー」は、頭はモミジで身体は貝のカキ。それはまだわかるけど、胴体から腕にかけた青いラインが広島の「ひ」の字になってるっていうんだけど、普通気づかないでしょ。

 それに比べて、ひこにゃんは兜かぶったネコですよね。しかも、かわいい。やっぱキャラクターデザインって、要素を引いていくとかわいくなるんですよ。でも、引き算のデザインって、ゆるくなくて、ちゃんとしたキャラクターでしょ。

 いま一番人気の「くまモン」も、とてもメジャー感あるでしょ。クラシカル・ゆるキャラだったら、当然、くまモンの頭に阿蘇山乗っかってますよ。それでたまに噴火するように作るでしょ。脚はダイコンでしょうし。でもそれじゃかわいさはゼロですよ。つまり本来は、かわいいキャラクターと区別するために「ゆるキャラ」とカテゴライズしたものが、いつの間にかちゃんとしたキャラクターに向かっていく誤解が生じたわけです。

 でもだからといって「ゆるさ」が完全に失われたとは思いません。去年の「ゆるキャラグランプリ」で最下位の「ポピアン」なんて、4票ですよ、4票。あり得ないでしょ。職員の親戚集めたってもっといるでしょ。

 下位3人がみんな大阪のキャラで、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)に集結したんですけど、職員さんに聞いたら「自分たちも投票してない」っていうんだよね。で、その3人、その日の縁で意気投合して、今では3キャラで組んでイベントとかやってるんだって。ゆるくていいでしょ?

■みうらじゅん:1958年生まれ。イラストレーター、エッセイストなど幅広く活躍。「ゆるキャラ」のほか、「マイブーム」「とんまつり」なども流行語に。

※週刊ポスト2013年10月4日号

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