スポーツ

8球団所属した投手 テスト合格の秘訣「2月1日に全力出す」

 プロ野球はFA移籍やトライアウトの話題が中心の季節になった。プロ野球でかつて8球団を渡り歩いた男がいた。一体どんな人物なのか、スポーツライターの永谷脩氏が綴る。

 * * *
 師走の足音が聞こえる時期になると、戦力外通告を受けた選手たちが、再就職を目指してトライアウトに臨む。今年の第1回テストには65名が参加。その中には、日米の8球団で活躍した45歳の木田優夫(BCリーグ・石川)などが含まれていた。
 
 かつて球界には、日本だけで合計8球団を渡り歩いた男がいる(プロ野球記録)。それもトレードではなくすべて自由契約になった末、テストに合格して、行く球団、球団で年俸が上がっていったという凄腕である。
 
 名前を後藤修という。同じ「オサム」ということで可愛がってもらった。少年誌の連載で原稿をもらいに毎週通ったが、文字は達筆で、応接間には常にクラシック音楽が流れていた。

 静岡の進学校・磐田南高では、東大にも受かると言われたほどの学力の持ち主。加えて遠投120メートルという強肩と、全身がバネのような身体能力があり、1952年に松竹のテストを受けて一発合格した。

 その後1953年には大洋、1955年東映、1956年大映、1957年巨人、1959年近鉄、1961年南海、1963年西鉄と、最大2年を限度に渡り歩いたことで、「ジプシー後藤」の名前がついた。本人曰く9球団目(阪急)も声がかかったが、「野球よりものめり込めるのは個人競技」と、突然ゴルフのティーチングプロに転向。ジャンボ尾崎や中嶋常幸を教えていた。

 一度だけプロのテストに受かる方法を尋ねたことがある。答えは、「2月1日に全力を出せるようにトレーニングする」というものだった。キャンプの初日に、テスト入団生がいきなり150キロ近い球を投げたらば、大概採用してくれるという(しかし4月の開幕の時には、もう疲れてしまうことが多かったとも言っていた)。

 加えて、キャンプ中にオーナーが訪問する日を周囲から聞いておき、それに合わせて調整していたという。「オーナーが“面白そうだね”と言えば大体合格だから」と笑っていた。若造の編集者を相手に、どこまで本気で言ったかはわからないが、さもありなんと思ったものだ。人が休む正月に鉄下駄を履いて、寒風の中、大井川の河川敷を走りながら、下半身を鍛えたからできた芸当だった

※週刊ポスト2013年12月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン