芸能

加藤武 「経歴・年数関係ない。重鎮と言われるとゾッとする」

 俳優生活60年を超え、80歳を過ぎた今も活躍する加藤武氏は、今では文学座の代表でもある。「重鎮」と呼ばれるにふさわしい立場だが、そう呼ばれるのを嫌う加藤の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。

 * * *
 加藤武は1950年代から1960年代にかけて今村昌平監督の初期作品に相次いで出演、中でも『豚と軍艦』での、戦後社会をしたたかに生き抜くヤクザの役は強烈な印象を残した。

 一方、1970年代になると深作欣二監督『仁義なき戦い』シリーズのだらしない親分・打本や、市川崑監督金田一耕助シリーズでの「よし、分かった!」の等々力警部といった、コミカルな役柄もこなしている。

「『仁義なき~』はやりよかったね。ああいう現実的な親分、面白いよね。子分には『殺っちゃれ』と言っておいてテメエはおどおどしている。深作さんはちゃんと私を見て配役をしてくれた。いい監督ってガラだけじゃなくて性格まで役者を見てる。

 金子信雄さんも面白かった。文学座では大先輩だった。現場では先輩も後輩もない。役者同士のぶつかり合いだ。だから自然に面白い画面になった。

 市川崑さんも役者の芝居を引き出すのが上手かった。冗談を言いながらリラックスさせてくれる。私の役は原作にはなくて崑さんが作った。おどろおどろしい場面ばかりだと、お客がくたびれちゃう。ホッとさせる瞬間が欲しい。そこでコメディ・リリーフが必要なんだ。しかも、いかつい顔をした私にその役を振ったのが上手いところだ。

 でも、役者は笑わせようという意識を持って芝居したら絶対にダメ。真面目にやらなきゃ。ウケようと思ってやった芝居はわざとらしい。コケるにしても、一生懸命にやるから観ていて面白いんだ。あざとくやるとわざとらしくて見ていられない」

 近年でも大河ドラマ『風林火山』で猛々しい武将の役を演じたり、舞台では劇場の隅々まで地声を響き渡らせたりと、その肉体は衰えを知らない。

「俳優もアスリートだと思う。老いも若きも舞台に立ったら『よーいどん』で一斉にスタートする。途中で息切れしたら、どんどん追い越される。で、誰が一着か二着かはお客さんが判定する。だから、経歴も年数も全く関係ない。私は重鎮なんて言われるとゾッとする」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。

※週刊ポスト2014年3月28日号

関連記事

トピックス

デビュー25周年を迎えた後藤真希
デビュー25周年の後藤真希 「なんだか“作ったもの”に感じてしまった」とモー娘。時代の葛藤明かす きゃんちゅー、AKBとのコラボで感じた“意識の変化”も
NEWSポストセブン
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
亡くなった辻上里菜さん(写真/里菜さんの母親提供)
《22歳シングルマザー「ゴルフクラブ殴打殺人事件」に新証言》裁判で認められた被告の「女性と別の男の2人の脅されていた」の主張に、当事者である“別の男”が反論 「彼女が殺されたことも知らなかった」と手紙に綴る
NEWSポストセブン
ものづくりの現場がやっぱり好きだと菊川怜は言う
《15年ぶりに映画出演》菊川怜インタビュー 三児の子育てを中心とした生活の中、肉体的にハードでも「これまでのイメージを覆すような役にも挑戦していきたい」と意気込み
週刊ポスト
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
田久保市長の”卒業勘違い発言”を覆した「記録」についての証言が得られた(右:本人SNSより)
【新証言】学歴詐称疑惑の田久保市長、大学取得単位は「卒業要件の半分以下」だった 百条委関係者も「“勘違い”できるような数字ではない」と複数証言
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン
バラエティ番組「ぽかぽか」に出演した益若つばさ(写真は2013年)
「こんな顔だった?」益若つばさ(40)が“人生最大のイメチェン”でネット騒然…元夫・梅しゃんが明かしていた息子との絶妙な距離感
NEWSポストセブン
ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン
問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン