「諸行無常の境地というか、景色は移ろってこそ面白いという日本人的な感覚が、僕の中にもあるんだと思う。東京タワーの蝋人形館や三軒茶屋の中央劇場がなくなった時はさすがにガックリきたけど、東横線が西武池袋線や東上線と一本で繋がり、練馬のトンネルの先が代官山みたいな距離感もそれはそれで面白いんです。僕個人は東横線と東上線にそれぞれ色がある方が好みだけど、まあ仕方ないかという諦観があるから、結構すぐに立ち直れる(笑い)」
奇しくも氏は、関東大震災後の復興の様子を丹念にスケッチし、考古学ならぬ考現学を提唱した今和次郎らの仕事を現代に甦らせた『東京考現学図鑑』を2011年3月9日付で刊行。その成果も反映させた本書自体が平成版・考現学といえる。
「僕らには懐かしい昭和の風景を、かつては大正以前を知る川端康成や永井荷風が嘆き、結局感じ方も時代によって変わるんですよね。既に昭和40年代の団地を面白がる人もいるし、秀和レジデンスのあの〈クリーム〉みたいな壁にモダンなセンスを感じる世代もいるわけでして。日々変化する国土に生まれたからこそ、古い映画や写真集に記録された風景に愛着を感じ、玉電に乗った自慢もできる(笑い)。
そうした日本人的なワビサビが、舛添都知事始め、オリンピックに向けた開発を担う人たちにもあるといいなあ、とは思いますけど」
本書でも泉氏は冷徹かつ飄然とした記録係に徹し、主観と客観性のバランスが絶妙だ。かつて今和次郎が内なる熱を燃やしつつ風俗を客観せよと書いたように、わざわざ口にせずとも足取りに滲み出てこそ主観なのだろう。
【著者プロフィール】泉麻人(いずみ・あさと):1956年東京都生まれ。慶應義塾中高~同大商学部卒。『週刊TVガイド』編集部等を経てコラムニスト。著書に『ナウのしくみ』『東京23区物語』『地下鉄の友』『東京自転車日記』『大東京バス案内』『たのしい社会科旅行』『シェーの時代』『東京ディープな宿』『お天気おじさんへの道』『泉麻人の東京・七福神の町あるき』『東京ふつうの喫茶店』『昭和切手少年』『箱根駅伝を歩く』等。テレビ・ラジオでも活躍。173cm、63kg、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年5月23日号