芸能

花子とアン 危うさ抱える吉高由里子を仲間由紀恵が牽引した

 ほどなく大団円を迎える朝ドラ。視聴率も話題性も及第点を大きく上回ったといえそうな今作だが、作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が「功労者」について分析する。

 * * *
 年末のNHK「紅白歌合戦」で、朝ドラ「花子とアン」に出演中の女優・仲間由紀恵さんが司会役を打診された、というニュースが流れました。それに対して仲間さん側は、「ヒロイン役の吉高由里子さんとの“司会共演”を希望したい」と返したのだとか。この短いニュースが、いよいよ最終回に近づいた「花子とアン」を、一気に総括した--そう感じたのは私だけでしょうか?

 吉高由里子が演じる、主人公の花子。仲間由紀恵が演じる、腹心の友の蓮子。この朝ドラは「花子とアン」ではなくて、実は「花子と蓮子」という二人の対比の中に展開したドラマではなかっただろうか、と思います。

 もちろん、本来はそうではなかったはず。「村岡花子」という主軸は明確だったし、『赤毛のアン』という偉大な作品に関する様々なエピソードが盛り込まれるのは自明のこと。大翻訳家の「波瀾万丈の人生」こそが筋のメインだった。

 ところが、蓮子のキャラクターが回を追うごとに膨らんでいき、いわば「脇役」が存在感を増し、その人がらみのエピソードに視聴者は目が離せなくなり……。望まない結婚、炭坑王の夫・伝助とのからみ。息子との言い争い、花子とのぶつかりあい、友情のほころび。私自身も蓮子の表情にぐぐっと引き寄せられ、画面をじっと凝視してしまいました。蓮子を演じたのはそう、仲間由紀恵。彼女の表情の中に、人が生きる複雑さというものが見てとれたからかもしれません。

 台詞の無いシーンでこそ、際立つ演技力。目が切々と語りかけてくる。絶望とかすかな希望とが、ひとつの顔の中に交錯している。そんな蓮子に釘付けになってしまう。一方で、花子のキャラクターは?  花子がしゃべるシーンになると、視聴者の私はつい別のことを始めてしまう。忙しい朝の時間帯、お皿を洗ったりコーヒー淹れたり、仕事の準備をしたり……「ながら視聴」にシフトしてしまう。

 もちろん、花子役・吉高由里子さんもきっと頑張ったことでしょう。しかし、根本的なところで「悲劇」がおこっていたのかも。吉高さんのサバサバした軽やかな今様キャラは魅力的。だけれど花子を演じるとなると、どうにも翻訳者・言葉を扱う文学者に見えてこない。静的、内省的でコツコツと辞書を引き文章に向き合う人物には……。

「赤毛のアン」の翻訳シーンもさらっと完了。花子とアンにまつわるエピソードはいずれも深くは刻まれず。悲惨な出来事も、絶望までには届かないし、喜びも感激までには昇華しない。表面的にスルーしていってしまうのです。きっと役者のせいだけでないのでしょう。脚本や演出にも原因はあったのでしょう。そんな風に、「花子」という人物造形に物足りなさがあればあるほど、「蓮子」の深さが際立つ、というパラドックス。

 もし、このドラマに仲間さんが出演していなかったらどうなっていたのだろう。想像すると、ちょっとヒヤリ。経験したことや発見したこと、一見遠回りのように思えるさまざまな出来事を自分の中にこつこつと蓄積していく。いつか血肉になって表面に滲み出てくる。それが演技に奥行きを与え、登場人物に味わいを添える。

 特に半年という長丁場の朝ドラでは、そうした役者の演技力がキーになる、ということでしょうか。ドラマを「牽引」した人に司会のオファーが届く、というのは、ある意味自然な流れと言えるのかもしれません。

関連記事

トピックス

警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
このほど発表された新型ロマンスカーは前面展望を採用した車両デザイン
小田急が発表した新型は「白いロマンスカー」後継だというけれど…展望車復活は確定だが台車と「走る喫茶室」はどうなる?
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン