イモータン・ジョーの命令でフュリオサたちを追いかける狂信的な暴徒たちの群れは、厳しい営業目標を課せられる営業会社のモーレツ営業マンを思わせます。さらに、火炎を放射するギター兵、彼を乗せたクルマのドラムを打ち鳴らす人たち、それによる熱狂は、営業会社がよくやる表彰式やパーティーを思わせます。人間は熱狂すると、道に外れたこともやってしまうのかと切なくなった次第です。
一方の、フュリオサやマックスたちの逃走するチームですが、これはまさにダイバーシティーが推進された組織です。女性のフェリオサは片手が義手、妊婦もいるワイブス、元々は敵であり主義主張も違うニュークス、ややネタバレですが途中で合流する老いた女性たち。実に多様性のあるチームです。特に女性が活躍していることが話題になっていますね。
ただ、このチーム、見ていて複雑な心境になってきますし、ダイバーシティーの本質を物語っているように思うのです。
世間はダイバーシティー推進の大合唱なわけですが、中には、いかにも福祉的な意味で、あるいは株主や消費者から良く思ってもらうために、見せかけの取り組みを行っている例も見られます。誰も活用しないような制度などを立ち上げるなどの取り組みがそうです。
個人的にはダイバーシティー推進というのは、それを極度に目的化してはいけないと思います。さらには労働者だけでなく、経営側にとっても、社会にとってもメリットのあることでなくてはなりません。真に定着するダイバーシティー推進とは、「せざるを得ない取り組み」「誰もが得する取り組み」です。
この『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でのフュリオサたちの逃亡チームは、「やむを得ず」ダイバーシティーを推進した事例でしょう。それ故の強さも感じた次第です。一方、ここまで仕事をしないといけないのかとも感じ、切なくなりました。
イモータン・ジョーの軍団とも共通点があると言えばあります。それは「ビジョン」を明確にすることです。「緑の土地」というものが「ある」、そこを「目指す」というビジョンが、メンバーを本気にさせたのでしょう。ただ、そのビジョンのために、人はここまで働いてしまうのかと考えるとやはり複雑な心境になります。さらには、ボスを倒したところで、厳しい世界であることはまったく変わらないのですが。
小難しく書きましたが、悪趣味な部分を含め、また社会について考えてしまう点など含めて興味深い作品なので、ぜひご覧ください。カップルでは見ないでくださいね。