それから3か月後の9月11日、気象庁は噴火警戒レベルを3から2に戻した。しかし、危険が去ったわけではないと地震・火山研究の第一人者、武蔵野学院大の島村英紀・特任教授が話す。
「差し迫った危険を表わす事象がないため、観光業に配慮して警戒レベルを下げたと見ています。直近の群発地震は確かに減っていますが、状況は警戒レベルを2から3に引き上げた6月とさして変わっていない」
いまでも箱根山の入り口である箱根湯本駅前の観光協会には警戒区域が記された地図が貼られ、大涌谷へと向かう箱根ロープウェイの運休も続いている。
大涌谷の火口から半径530m(9月11日の警戒レベル引き下げに伴い、同14日から半径1kmから縮小)の「立ち入り禁止」区域前の道路にはフェンスが置かれ、複数の警備員が目を光らせる。そこから山を見上げると、白い噴煙がもうもうと上がり、辺りには硫黄の匂いが立ち込める。
だが、風評被害で観光客が激減しているためか、観光業関係者たちは口々に安全をアピールする。
「箱根駅伝が中止になる!? そんな話は聞いてませんよ。警報が出る前と何ら状況は変わっていない。危険なんてない。マスコミが騒ぎすぎなんですよ!」(箱根の飲食店店主)
苛立ち混じりの口調からは、ただでさえ観光客が減っている状況で、箱根駅伝まで中止となったら大打撃になるという危機感が滲んでいた。だが、不安の声を上げる関係者もいる。地元の旅館経営者が絶対匿名を条件にこう話す。
「部屋の窓を開けていると、“ゴー”という地鳴りのような音が聞こえてきて不気味さを感じる。ウチの宿では館内にBGMを流してごまかしています」
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2015年10月16・23日号