●理由その2 バランスのよいキャスティング
では、主役以外の役者たちはどうだろうか? あさの許嫁・白岡新次郎を演じる玉木宏。その演技が光っている。主人公とはかけ離れた年上の、両替商家のボンボン。そうした人物像をしっかりと把握し、ゆったりと落ち付いて描き出している。
姉・はつを演じる宮﨑あおいは、目の動きと横顔だけで演技する巧さ。はつとあさ、静と動。姉妹の対照をきちっと見せてくれている。頑固な父・忠興には升毅、柔らかな母・梨江に寺島しのぶ。そして柄本佑、萬田久子……主人公を取り巻く人物たちが実に多彩だ。一人一人違う味わいのキャラクターを、それぞれの役者たちがくっきりと際立たせている。視聴者は、そのバリエーションを眺めつつ、ドラマの世界を楽しむことができる。
バランスの好いキャスティング・配置は、偶然には生まれない。演出側が意図した成果だ。となれば今後の長い展開の中でも、力ある個性的役者が適材適所で登場してくるはず。今回はぜひ、「役者を楽しむ朝ドラ」になってほしい。
●理由その3 幕末から明治の時代に、町人の暮らしを描く
朝ドラでは初めて、幕末から物語がスタートした、と話題。たしかに、これまで幕末を扱うドラマといえば、たいてい大河ドラマで登場人物は幕末の志士がお定まり。時々、思い出したように女主人公が現れるけれど、『花燃ゆ』を見ればわかるように、維新と志士があってこその物語になりがち。
しかし、今回の朝ドラは違う。そうしたお定まりのフレームから脱して、「町人」枠へとシフト。着物にそろばん、裁縫に輿入れ……幕末の町人の暮らしのディテイルが、実に新鮮だ。
当然ながら「激動の時代」を生きたのは志士たちだけではない。あさが嫁ぐ両替商は証文が紙きれ同然になるなど、商業の混乱ぶりも生半可ではなかった。「幕府」と「倒幕派(後の新政府)」、どちらについたかで、商人たちの明暗もくっきり分かれたという。と、商人の暮らしから、いくらでも紡ぎ出せるドラマツルギー。
「戦い」に偏りがちだったこの時代のドラマに、喝と活を入れる脚本。その意味でも『あさが来た』に大いに期待したい。