『山本』『白瀑(しらたき)』の山本友文(45)の経歴はユニークだ。『THE BOOM』を擁する音楽事務所など東京で仕事をしていた。県北部に位置する八峰町に戻って来たのは、2013年前のことだ。
「経営は大赤字で、このままなら潰れてしまうという時期でした。ベテラン杜氏が引退したり、引き継ぎがうまくいかなかったりで、ストレスで顔面神経痛にもなった。8年前“このまま潰れるならもう自分で造るしかない”と始めたんです」(山本)
山本は醸造試験場に通い、やはり杜氏なしで造る『ゆきの美人』の小林に相談しながら、実践の中で酒造りを学んでいった。
『ミッドナイトブルー』『ストロベリーレッド』をはじめとする独特な酒のネーミングには、音楽畑にいた頃の感性も見てとれる。山本の酒の特徴は、日本海と白神山地に挟まれた土地ならではの一貫した造りにある。
山本は、酒蔵近くの水田で自社製の酒米を育てている。標高300メートルのブナが繁る山の中腹から、その標高差を利用して水田と蔵に湧き水を引き入れている。つまり、酒米を育てる田んぼの水と仕込み水が同じなのだ。山本は、絶景の地の自然を余すことなく使っている。
去年からは、中国や韓国、シンガポール、オーストラリアなどに向けて日本酒を輸出し始めた。
「他の国からもオファーは来ているけど、急には増やせなくて。外国人には酒はこうでなきゃいけないというような先入観がないので、逆に感想も参考になるんです」(同前)