その角打ち台には、客の間で“謎の加湿器”と呼ばれる電化製品が載っている。
「実はIH(電磁調理器)のコンロと鍋なんです。すぐにお湯が沸くんで、皆さん、缶詰や豆腐を温めたりするのに使ってます。けっこう働き者、人気者なんですよ。何分ぐらいがベストかとか、段取りが悪いなあとか、うんちくを語ったり、からかったりしながら楽しんでますね。その鍋からいつも湯気が出ているので、こりゃあ加湿器でもあるなってわけです」(勉さん)
井戸端会議ならぬ、加湿器端会議をしながらの角打ちというわけだ。
「こういう家族的な雰囲気の中で飲むとさらにうまくなる酒が、僕は焼酎ハイボールだと思います。辛口で飲みごたえもある。でも、変に構えないで飲めるというのかなあ。井戸端会議にはこういう気楽で楽しく飲める酒が最高ですよ」(50代公務員)
「今はうまい米を売ることに専念している先代も、酒を語ってくれる若旦那(勉さん)も、親切で人間味にあふれていて、みんな大好き。あえて言わせてもらえば口下手で、商売上手って感じがしないんでちょっと心配になることがあるんです。ところがよくしたもので、そこにお母さんやお嫁さんが加わると、すてきなマツヤカルテットになって、客をほっとさせてくれる。きっと、これが我々がマツヤに惹かれる一番の理由なんだと思いますよ」(40代、製造業)
店の奥には本物の杉玉がぶら下がり、その向こうに勉さんが選び抜いた酒が並ぶ、常に10℃~から15℃の温度に保たれたガラス張りの酒庫がある。
「酒に対する私の思いがそこにあるんですが、楽しく飲んでもらうためのインテリアでもあります。とにかく、うまい酒といい付き合い方をしてもらえればうれしいです」(勉さん)