「(小番)一騎はフックで被害者を殴り、さらに顎をストレートで殴り、被害者は仰向けに倒れ痙攣し始めた。このとき一騎はリュックから鋏を取り出したので、初めて一騎が鋏を持ってきていたことを知った」
「一騎は鋏を持ち、素早く下半身に近づきズボンを下ろした。まさか切るのではと頭をよぎった。私から一騎の手元は背中で隠れていたので見えなかったが……」
そして先述したように、妻は耳を通して“事件の瞬間”を知る。そんな中で、「何もしなかった自分」にわずかながら後悔を感じていた様子もあった。
「止めるどころか、声も上げず、動いてもなかった。なんで何もせず突っ立っていたんだろう。もともと修羅場が苦手で、空気を壊すのが苦手で、目を背けたかった。テレビでも見ているような感じで現実感を感じなかった」
妻の調書は、自らの今後の生活についての供述で結ばれていた。
「一騎への愛情は事件後も変わりないが、せめて名字だけでも変えたい。人生リセットしないと」
だが、“シャキン”と切られた被害者の性器も、そして小番被告の犯した罪も決してリセットされることはない。スキンヘッドだった小番被告の髪の毛だけが伸び始めていた。
●取材協力/高橋ユキ(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2016年4月8日号