「食べているところを見られるのって苦手だな」とボヤきながらおかわり
「プロを目指していたわけではない。やめ時を失ったというか、プロ入りも大学4年になってから決めた。就職していたら教員になっていたと思う」
それで、上位陣と対戦する地位まですぐ上り詰めたのだから恐れ入る。勝負の世界にとって、気弱、ネガティブであることは多くの場合マイナスであるはずだ。なぜ、彼はここまで結果を残せてきたのだろうか。
それを示す象徴的な出来事があった。取材時、好きな女性有名人について聞いた時だ。正代は20代の若者らしく、「(モデルの)西内まりやさんです」と相好を崩した。そこで、出世をすれば有名人にも会えるからチャンスではと聞くと、彼は凄い勢いでまくしたてた。
「無理無理無理! 僕は眺めているぐらいがちょうどいいんですよ。会っても何を喋ればいいのか……。住む世界が違うし、芸能人の方は僕みたいな一般人とは違う感性をお持ちなので、話がそもそも噛み合わないですよ」
スピード出世を果たした者の多くは天狗になり自分を見失う。だが正代は生来の性格からか、驕ることなく自然体でいる。これこそが彼の天賦の才を最大限に活かしているのだろう。気弱ではなく「謙虚」。だからこそ人を惹きつける。
正代は今、出世頭の力士の誰もが壁にぶち当たってきた番付にいる。今場所は初日から横綱、大関との対戦が続き苦戦。だが、正代はブレない。
「いい経験になればいい。上の方と当たるので、勝ち負けにはこだわらない。これまでが出来すぎなんですから」
笑顔が愛らしい若手のホープ。個性的なキャラクターの旋風に期待したい。
◆しょうだい/本名・正代直也。1991年11月5日、熊本県生まれ。小1で相撲を始め、熊本農業高3年時に国体で優勝。東京農大2年時に学生横綱に輝いた。3年時は全日本相撲選手権決勝で遠藤に敗れて準優勝。2014年春場所前相撲で初土俵を踏んだ。2015年秋場所新十両、同九州場所で十両優勝。十両を2場所で通過し、歴代3位となるスピード出世で新入幕を決めた。
撮影■藤岡雅樹 取材・文■鵜飼克郎
※週刊ポスト2016年5月27日号