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作家・北康利氏 「昭和の経営者の言葉には重みがあった」

“経営の神様”と呼ばれた松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助は、本社のある大阪・門真市の成人式に招かれ、新成人にこう語ったという。

「これからは、人生を経営するつもりで生きてみなさい」

 人生を企業経営になぞらえる発想が斬新だ。ノウハウを蓄え、資金繰りを考え、目標を掲げて、自らの幸福を追求しながら、同時に社会への貢献を考えていく点では、企業も人間も同じである。

 名経営者と呼ばれる人の言葉が、ビジネスマンだけでなく主婦や学生の心をもとらえ、心の滋養になるのはそのためかもしれない。だが、昭和の経営者と現代の経営者では、言葉の重みに違いを感じるのはなぜだろう。

「昔の経営者はすごかった」と懐古趣味に浸るつもりはないが、いくつか思いついたことを述べてみたい。

 苦労を知らない経営者などこの世におるまいが、昭和の経営者は苦労のレベルが違うという印象は否めない。シャープ創業者の早川徳次は関東大震災による大火災で、会社を失い、家族を失い、シャープペンシルの特許まで手放さざるを得ない地獄を見た。

 ワコール創業者の塚本幸一は太平洋戦争のインパール作戦の生き残りだ。彼の部隊は五十五人中三人しか生き残らず、五十二人分の人生を背負って戦後を生きた。フィリピン戦線を生き延びた中内功しかり。戦争は昭和を生きた経営者の共通体験である。

 苦労の数だけ経営者は求心力を持ち、言葉は輝きを増す。

 壽屋(現在のサントリー)創業者の鳥井信治郎は赤玉ポートワインが売れて売れて仕方ない時にウイスキーに打って出た。二代目社長の佐治敬三はそのウイスキーが看板商品に育った時にあえてビールへの進出を決める。

「やってみなはれ!」

 サントリーは、苦労を自ら作ってまで越えていったのである。

 苦労という意味では、人材を育てる手間を惜しむ傾向も気になるところだ。最近はやりのM&Aがいい例だ。新規事業は既存の会社を購入して始め、必要な人材はヘッドハンティングしてくる。果たしてそれでいいのだろうか?

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