2009年に米国で出版されたがん患者に関する医学論文集『Medical Care of Cancer Patients(がん患者の医学的ケア)』で、ヘンリー・フォード病院のヤキール・ムシカト医師は、こう述べている。
〈がん患者の20%以上は、悪性腫瘍というよりも栄養失調の影響をより強く受ける形で死亡している〉
つまりがんそのものではなく、栄養不足で体調不良になる「栄養失調」で亡くなるのだ。前出・東口氏が語る。
「私の2003年の調査ではサンプル数が少ないという反論があることは承知しています。ですが、当時末期と診断され、私たちの診療科にいらっしゃった患者さんの大半は、がんの進行というよりも、むしろ栄養不足による全身衰弱に陥っていました。そんな実態があったからこそ、私は当時の栄養軽視の医療に大きな疑問を抱くようになったのです。
治療のために入院した患者が栄養不足になってしまう現状は世界共通の問題です。日本でも、絶対に見過ごしてはならない」
入院中の患者が栄養不足になっていると初めて指摘したのは、1974年に米国で発表された「病室の骸骨」という論文だ。それまで栄養不足は主に食糧問題が深刻な発展途上国や、戦争などに伴って起こると考えられていた。そのため、先進国の病院で、栄養不足が高率で起こっているという内容は医学界に衝撃を与えたという。
※週刊ポスト2016年6月10日号