慰安婦問題の解決へ向けた動きを軌道に乗せたいのが朴大統領の本音だろう。それには、韓国政府がつくる財団にできるだけ多くの元慰安婦に参加してもらう必要がある。しかし、ひとたび「少女像を撤去する」と表明してしまえば、合意全体への反対が燃え盛ることは必定で、財団自体が有名無実になる。まずは元慰安婦に財団からの支援金を受け取ってもらい、「この問題は解決した」という雰囲気を醸成させ、その上で少女像の問題に取り組むつもりではないか。つまり、「少女像」は解決への入口ではなく、出口なのだ。

 朴大統領の“掌返し”発言は、こうした状況下で国内を説得するためだったと考えることができる。今回の朴大統領の発言を日本側が受け入れるわけにはいかないが、それでも直情的に反応するのではなく、冷静な視点を持ちたい。

 日本が騒げば騒ぐほど、少女像の“価値”が上がることを肝に銘じなければならない。日本の一部の国会議員は少女像が撤去されなければ10億円を支払うべきではないと主張しているが、それも避けるべきだ。

 日本が10億円を拠出しなければ、間違いなく合意は破綻する。そうなって喜ぶのは誰か。

 韓国国内で「合意反対」を叫び続ける「挺対協」である。日韓合意により、挺対協はその存在意義まで問われかねない立場に追い込まれた。かりに挺対協が政権と対立して合意を潰せば、韓国国内からも批判が起きるかもしれない。そんな苦しい状況で日本側がこれを潰してくれれば、まさに渡りに船だ。日本側の不誠実さを言い触らし、各地に少女像を設置して歩くことだろう。

 私はこれまで「日韓合意」について、韓国内で批判は度々されるだろうが、それに対して日本の政治、メディアが冷静でいられるかどうかが重要だと述べてきた。関係改善は緒に就いたばかりだ。いまこそ私たちは状況を俯瞰し、総合的で客観的な視座を持つべきだろう。

※SAPIO2016年7月号

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