私が最も許しがたいと感じるのは、1959年から始まった帰国事業(*)に関することです。この事業によって北朝鮮に渡った在日朝鮮人や日本人妻の多くがスパイ容疑で収容所に入れられ、筆舌に尽くしがたい残虐な方法で殺されているのに、そのことにはいっさい触れていません。逆に、帰国事業は素晴らしいことだと教え、指導した金日成、金正日の肖像画を掲げながら、「敬愛する将軍様」と書いた教科書で、今でも授業を行っています。
【*1959年から1984年まで続いた、在日朝鮮人とその家族らによる日本から北朝鮮への集団帰還事業。日本のマスコミも、当時は実態を知らぬまま北朝鮮を「地上の楽園」と喧伝するなどしてこの事業に賛同していた】
そのような教育を行うことは、祖国で殺された在日の人々の魂を冒涜しています。さらに言えば、彼らの子孫である朝鮮学校の子供たちに対する虐待です。
●がもう・けんじ/1980年大阪府生まれ。フリーのシステムエンジニア。北朝鮮による工作活動の歴史を研究し、脱北者の高政美氏と共に朝鮮学校問題などについて情報発信を続けている。
※SAPIO2016年8月号