もちろん、さらに混雑率を下げて快適に通勤できるような環境づくりを進めることはいいことだろう。しかし、本当に2階建て電車を走らせることは可能なのだろうか?
実は小池新都知事が提唱する以前から、JR東日本は2階建て電車を運行している。それが、1992(平成4)年に登場した215系だ。
それまでにも、二階建て電車がなかったわけではない。215系が注目された理由は、それまでの2階建て電車が主に観光目的としていたのに対して、通勤用の電車だったからにほかならない。215系は、一人でも多くの人が座って通勤できることをコンセプトにしていただけあって、10両編成で総座席数は1010もある。
これだけの座席があれば、満員電車はなくなる。当初はそう考えられていた。ところが、事態はそう簡単に進まなかった。215系はオール二階建て車両のため、1両にドアが2つしか設置できない。そうなると、乗り降りに時間がかかってしまい、遅延が続発。215系の導入によって、かえって混雑は激化した。
現在、鉄道会社は混雑対策としてスムーズに乗降ができるように1両あたりのドアの数を増やしたり、ワイドドア車を導入するなどして対応している。
JR東日本は東海道線や横須賀線、宇都宮線、高崎線などでグリーン車のみで2階建て車両を導入しているが、これらはあくまでも乗車時間が長い利用客をターゲットにしている。山手線のように乗車時間が5~10分の路線に2階建て車両は不向きなのだ。
実際に東京都交通局が取っている混雑対策は
「新宿線の一部電車を8両編成から10両編成に切り替えて輸送力を強化しています」(同)
ぐらいしか手がない。
8月6日に配信された東洋経済オンラインのインタビューで、小池新都知事のブレーンの一人とされる交通コンサルティング会社・ライトレール社長の阿部等さんが二階建て電車について語っている。同記事によると、阿部さんが考える二階建て車両は215系など従来のような内部を2層構造にした2階建て車両ではなく、ホームを2階建てにし、車両も総2階建てのものだという。
しかし、そんな車両を走らせても、電車がトンネルや跨線橋を通過できない。駅や架線などの電気設備も改造しなければならない。莫大なコストがかかる上に、長期の工事が必要になる。その間、山手線は全線運休を余儀なくされるだろう。
選挙期間中、ネットでは魔法使いサリーに扮した小池候補の写真が拡散されて話題を呼んだ。小池都知事が本物の魔法使いではない限り、2階建て電車の導入で満員電車をなくすことは非現実的だ。
東京都が取り組める現実的な満員電車緩和対策は、鉄道車両や駅の改良といったハード面ではなく、フレックスタイム制の導入、自宅勤務の奨励といった働き方改革、つまりソフト面にあるといえるのかもしれない。