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天皇陛下が苦悩される殯(もがり)の記憶

「お気持ち」表明で触れられた殯(もがり)とは?

 長野県で夏の静養中の両陛下は8月21日、『軽井沢会テニスコート』へと足を運ばれた。前日20日から、途中草津へ移動し30日まで。例年の5泊前後に比べると、今回の11日間のご静養は異例の長さだ。

「5月に熊本地震の被災地を訪問されるなど、お疲れがたまっていることを考慮しての日程だといいますが、『生前退位』報道、その後の『お気持ち』表明とご心労の重なった陛下にゆっくりしていただきたい…というのが本音でしょう」(前出・皇室記者)

 8月8日、陛下は国民に向けたビデオメッセージの中で、次のように明かされた。

《天皇の終焉に当たっては、重い殯(もがり)の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き、その後喪儀に関連する行事が、1年間続きます。その様々な行事と、新時代に関わる諸行事が同時に進行することから、行事に関わる人々、とりわけ残される家族は、非常に厳しい状況下に置かれざるを得ません》

 皇室ジャーナリストの神田秀一氏は、次のように明かす。

「『殯』と聞いても、ほとんどの人はそれが何を表すかわからなかったと思います。陛下が『お言葉』の中でご自身の老いや公務へのお気持ちに触れられると予想していましたが、具体的に『殯』に言及されたのには驚きました」

『もがり』とは「も(喪)あ(上)がり」が起源といわれ、大辞泉には『荒城(あらき)』に同じと記される。『あらき』の項目には《貴人の死体を、墳墓が完成するまで仮に納めて置いたこと。また、その所》とある。

 28年前の昭和天皇崩御をひもとくと、たった数十字では表すことのできない陛下の苦悩の記憶が蘇ってくる――。

「古くは『魏志倭人伝』にも記されている『殯』は、死者の蘇りを願い、すぐには埋葬せず腐敗が進むまで儀礼を続ける日本古来の葬礼の形式です。いわゆる“お通夜”に当たるものといえます」(前出・皇室記者)

 昭和天皇が崩御された1989年1月7日の翌日から、『大喪の礼』が行われた同年2月24日までのおよそ50日間が「殯」にあたり、連日24時間にわたる『殯宮祗候(ひんきゅうしこう)』が行われた。

「殯宮祗候は、ご遺体のそばに控えて故人を偲ぶことを言います。崩御から約2週間は吹上御所に、その後は宮殿の松の間にしつらえた『殯宮』に、昭和天皇のご遺体を納めた棺は安置されました。それからは、宮内庁職員や政治家、経済人などが10人ほどのグループになって交代で、真っ暗で静寂に包まれる殯宮の中で昭和天皇を偲びました。

 吹上御所にお体があるうちは、皇族方と旧皇族も含めたご親族が24時間体制でおそばに控えられました。しかし人数は限られるので、交代で当たられてもすぐにまた順番が回ってくる。崩御から間もないのに、悲しみに暮れる間もなく、夜を徹しての役割を担わねばならないのです」(皇室ジャーナリスト)

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