ノートは2005年、ブルックスが首位を争うサンフランシスコとのダブルヘッダーを制し、地区優勝した年のものだった。この第1戦で捕手と激突し、担架で運ばれながら、第2戦では代打で見事逆転3ランを放ってMVPに輝いた津久見と、今も本塁打を量産中の主軸オブライエンの薬物使用を、当時チームドクターだった〈マンジー・グレノン〉のカルテは暗に匂わせていた。
実はグレノンには安達も禍根があった。新米時代、彼はマイナーリーグの薬物汚染の事実を掴んだものの、グレノンは〈喘息の薬〉と主張。彼はその時の疑惑の選手で現神戸ブルズの2軍投手〈武藤勉〉に接触する一方、召喚された津久見を追って再びロスへ飛ぶ。
が、疑惑の英雄は沈黙し、グレノンは消息不明。またオブライエンの代理人〈エイミー・リン〉は本人から事件の経緯を聞き出すが、大物弁護士〈スコット・フォード〉は彼の証言を曲げ、司法取引に戦略を見出す。
「人体に有害なステロイドやヒト成長ホルモンはまだしも、昔は禁止薬物に指定されていなかったグリーニー等の興奮剤や風邪薬すら検査で引っかかるほど、今は基準そのものが複雑化している。
しかも目下話題の反社会勢力との交際疑惑が『知らなかった』で許されるのとは違い、ドーピングは陽性反応が出た段階でアウト。ただしMLBでは〈三振制〉といって、1度目の80日出場停止から3度目の永久追放まで段階を設けています。
そうしないと将来有望な選手が才能の芽を出す前に排除されてしまい、最高の選手の最高の戦いが観られなくなる可能性があるからだと思っています。それくらい心身共に追い込まれた選手への理解度というか、リスクを共有する覚悟が社会的にも必要で、ドーピング=悪というほど、単純ではないはずです」