阿川さんの父は「老人ホームに入れたら、自殺してやる」と若いころから豪語していたという。晩年は酔うと、母には「おい、頼むから俺より先に死なんでくれよ」とちょくちょく口にした。母も母で、「つまり私が先に死ぬと不便になるからとおっしゃりたいんでしょ」と決まって返す。「それだけじゃないんだがね…」という父に、母は「ほら、やっぱりそうなんじゃないですか」と言った。

 その母は父への恨みを抱いているわけでもなく、相変わらず父に小言を言われ、いちいち叱られながら、ちょこまかと要求に従っている。むしろかまってもらいたいのは父で、イライラしながらも、母の動きを心配そうに追っていたという。

 阿川さんに「強い父」の好きなところを聞くと――。

「結局、距離を置いてみるとおかしい人だというところですかね(笑い)。客観的に見ると怒り方すらおかしい。笑えるというか、ムフフ…」

 そう思い出し笑いしながら5年介護した父を看取るまでを振り返る。

「差し入れで持って行ったかつお節ご飯にパックのかつお節を使うと、『このかつお節は本物か? 次は上等のかつお節を削ってくれないと』と言われます。自分も仕事があって忙しい合間を縫って一生懸命やっているのに…。かといって気を使っていろいろ持って行くと『そんなにいろいろ持ってくるな!』ですから」

 せっかく作ったとうもろこしのてんぷらを『まずい』と言い、いたわりの言葉をかけながらお腹をさすれば『黙ってさすれ』と言われる。そんなわがままのオンパレードが、最後の最後まで続いた。

 阿川さんはきっぱりと「もう一度父のもとで育ちたいとは思いません」と言いながらも、「最後まで自己中心的でおかしい人でした」と笑う。

「ウケようと思って言ってるんじゃなくて本気で言ってる、だから面白い。『ネタいただきました』という感じ。最後までそんな父でした」
 
※女性セブン2016年10月27日号

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